定年を迎え、多くの人が「これからの人生」をどのように歩むかを考え始めます。まとまった退職金を手にしたとき、人は安心と同時に、これまでとは違う選択や挑戦に心が揺れ動くものです。人生の節目で、思わぬ落とし穴が待ち受けていることもあるようです。
バカでした…60歳定年で手にした〈退職金2,500万円〉が半年で〈350万円〉に激減。「元・銀行員のプライド」が砕け散る (※写真はイメージです/PIXTA)

順風満帆な老後のスタートが、同窓会で一転

田中健一さん(60歳・仮名)は、地方銀行を38年間勤め上げ、無事に定年退職の日を迎えました。真面目にコツコツと働き、大きな成功もなければ失敗もない、無難にキャリアを終えることができたと思っています。定年で手にした退職金は2,500万円と、指定した口座にはまとまった金額が振り込まれました。

 

「これで仕事で忙しい日々からはおさらばだ」

 

通帳に記帳された数字を眺めながら、田中さんは安堵のため息をつきました。銀行員として、お金の価値やその重みは誰よりも理解しているつもりです。リスクの高い金融商品に手を出す顧客を何人も見てきた経験から、自分は堅実に、この大切な資産を守り抜こうと固く心に誓っていました。

 

退職から1ヵ月が過ぎた頃、高校の同窓会が開かれるという知らせが届きます。久しぶりに会う旧友たちに、胸を張ってセカンドライフの始まりを報告できる。田中さんは、少し得意な気持ちで会場へ向かいました。

 

宴もたけなわ、旧交を温めるなか、ひときわ大きな声で話すグループの中心にいたのが、鈴木正雄さん(60歳・仮名)でした。地元の建設会社を経営している彼は、羽振りの良いことで有名でした。

 

「いやあ、最近は円安のおかげでさ。投資で面白いように儲かってね。先月も車を替えたところだよ」

 

田中さんはその様子を少し離れた席で見ていました。お金のプロである銀行員として、安定した資産形成をしてきた。正攻法を徹底し、不自由のない老後を約束する資産を築くことができた――しかし、リスクをとって儲ける鈴木さんに、強烈な嫉妬を覚えたのです。

 

「銀行員のお前なら、俺より詳しいだろ?」

 

突然、鈴木さんに話を振られた田中さん。当たり障りのない一般論を話すと、「さすが、元金融マン」との声。そんな周囲の反応は鈴木さんには「面白くないやつ」といわれているように聞こえ、「俺だって、やればできる」という根拠のないプライドが心のなかで渦巻いていました。