(※写真はイメージです/PIXTA)
甘い見通し…夢の実現に隠れた「落とし穴」
グランドオープンの日。開店祝いの花に囲まれ、店内は多くの客で賑わいました。幸先の良いスタートに田中さんは「夢が叶った」と実感したといいます。その後も客足は順調で、忙しい日々を送りました。しかし繁盛すればするほど、田中さんはピンチに追い込まれていったのです。
食材費の高騰。こだわりが強いため、なかなか安く代替の食材に変えることができません。さらにカレーには欠かせない米まで値上がり。客が入れば入るほど、こだわりのカレーを出せば出すほど、店の経営は苦しくなっていきました。
「値上げしないとムリだ」
こうして一気に800円の値上げ。すると客足が一気に遠のきました。1皿2,000円を超えるカレーは、住宅街の飲食店としては高すぎたようです。結局、店を開ければ開けるだけ赤字になる負のスパイラルからは脱却できず、開業1年を待たずに閉店。田中さんの挑戦は、借金だけが残る結果となったのです。
中小企業庁『中小企業白書』でも、廃業の理由として「販売不振」は常に上位に挙げられます。田中さんの店も、まさにその典型的なパターンに陥ってしまいました。
長年の経験を生かしたシニア起業。飲食店は人気の業種です。しかし失敗事例は後を絶ちません。もともと飲食店は3年で7割が閉店するといわれる厳しい世界。さらにシニア起業の場合、採算度外視で高価な食材や設備を導入し利益が出なかったり、自分の好みにこだわるあまり顧客ニーズから乖離してしまったりと、過度なこだわりが足かせになることも珍しくありません。豊富な経験がマイナスに作用してしまうわけです。
「うまいものを作っていれば飲食店は成功する――夢をみてしまったんですね。現実離れしていたのが敗因です」
失敗から1年。田中さんはまだ諦めていません。こだわりのカレーをどうしたら安く提供できるか――多くの人に美味しいカレーを食べてもらいたいという夢は、まだ終わっていないようです。
[参考資料]
日本政策金融公庫『2023年度新規開業実態調査』
中小企業庁『中小企業白書』