夫婦が長い年月を共に歩んだその先に、どのような老後が待っているのか――ときに、最悪の結末を迎えることも珍しくありません。
退職金5,000万円、半分いただきます…長年連れ添った妻が67歳夫に突きつけた「離婚届」。エリート国家公務員だった男が気づかなかった「妻の怒り」の正体

「お前の仕事は家を守ること」夫の言葉が妻の心を凍らせた

正雄さんは必死に過去を遡りましたが、妻が離婚を考えるほどの決定的な出来事は思い当たりません。しかし裕子さんは「理由なんてありすぎて、いくら時間があっても語り尽くせないくらい」といいます。

 

たとえば、子どもたちの授業参観や運動会。正雄さんは「仕事が忙しい」の一点張りで、一度として顔を出したことはありませんでした。裕子さんが「一度くらい来てくれたら、子どもたちも喜ぶのに」とこぼしても、「俺が働いているから、お前たちは生活できるんだ。どちらが大事なんだ」と逆に言いくるめられるだけ。

 

裕子さんが40代半ばになり、子育ても少し落ち着いた頃、「パートでも始めようかしら」と相談したことがありました。社会との繋がりを持ちたい、少しでも自分の世界を広げたいというささやかな願いでした。しかし、正雄さんの答えは冷たいものでした。

 

「俺の稼ぎに不満があるのか。みっともないからやめておけ。お前の仕事は、家のことをしっかりやって、俺が気持ちよく働ける環境を整えることだろう」

 

このひと言は、裕子さんの心に深く突き刺さりました。自分の存在価値は、夫のサポート役に過ぎないのか。一人の人間としての自分の人生はどこにもないのか。この出来事を境に、裕子さんは夫に何かを期待することをやめたといいます。

 

これは、夫の無自覚な言動が妻を精神的に追い詰める「モラハラ(モラルハラスメント)」の一種と捉えることもできます。裁判所『司法統計年報(令和4年度)』によると、「精神的な虐待」は2番目に多い離婚理由です。

 

法律上、婚姻期間中に夫婦が協力して得た財産は「共有財産」とみなされます。妻が専業主婦として家事や育児を担い、夫が外で働ける環境を支えてきた貢献は、金銭的な価値と同等に評価されます。夫婦期間中に築いた貯金や退職金は財産分与の対象となり、特別な事情がない限り、貢献度は2分の1と判断されるのが一般的。また財産分与の一環として、夫婦が婚姻期間中に納めた厚生年金を分割できる「年金分割」も。これにより、たとえ専業主婦で年金受取額が少なくても、離婚後、生活を経済的に安定させることができるというわけです。

 

妻を対等なパートナーとして見てこなかったことによる、積年の怒り。正雄さんはまったく気が付くことがありませんでした。初めて知ったところで、後の祭り。取り返しのつかない状況に陥ってしまったようです。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年(2022)人口動態統計』

裁判所『司法統計年報(令和4年度)』