75歳を迎え、医療保険は後期高齢者医療制度へと切り替わります。年金月12万円で暮らす男性は、週に数日のパートで不足分を補ってきました。決して余裕のある生活ではありません。それでも制度上は「一定以上の所得」と判断され、医療費の自己負担は2割になる可能性があると告げられます。数字だけを見れば基準を満たしている。しかし、その数字の内側にある暮らしの実態はどうなのでしょうか。
バカにするな!〈年金月12万円・75歳男性〉、役所の窓口で激怒。〈家賃月3万円・築60年の団地〉の一室で抱いた虚無感 (※写真はイメージです/PIXTA)

月5万円のパート代が“余裕”なのか

「200万円を少し超えたくらいで、そんなに違うのか!」

 

区役所の窓口で声を荒らげたのは、山岡和夫さん(75歳・仮名)。現在、築60年を超える団地で一人暮らしをしています。家賃は月3万円。エレベーターはなく、4階まで階段を上る毎日です。

 

収入は年金が月12万円。現役時代は印刷会社に勤め、65歳で退職しました。年金だけでは足りず、退職後はスーパーの清掃パートを開始。現在も週3日、1日4時間働き、月に約5万円を得ています。

 

「贅沢をするためじゃない。最近は何でも物価が上がっているから、その分くらいは稼がないと」 食費は月3万5,000円前後。電気・ガス・水道で1万5,000円ほど。通信費や日用品を合わせると、年金だけでは赤字になります。パート代は、ほぼその穴埋めに消えていくといいます。

 

山岡さんは昨年、75歳を迎えたことで医療保険が後期高齢者医療制度に移りました。窓口で説明を受けたのは、自己負担割合が2割になる可能性があるという内容でした。

 

「年金が144万円で、パートが1年で60万円。合わせて204万円。基準を超えています」

 

 職員は資料を示しながら淡々と説明しました。山岡さんは高血圧で月に一度通院しています。薬代と診察代で月8,000円ほど。2割になれば負担は確実に増えます。

 

「月5万円のパートで“余裕がある人”になるのか。そういうことだろ?」

 

語気が強まったのは、その瞬間でした。窓口を後にし、団地の階段をゆっくり上りながら、山岡さんは考えました。働かなければ生活は苦しい。だが、働けば基準を超える。どこに線を引けばいいのか。

 

「働いているだけ損をしているようなもんじゃないか」

 

その日の夜、台所の蛍光灯の下で一人、湯のみを握ったまま動けなくなったといいます。

 

「せっかく説明してくれたのに、怒鳴ったのは悪かった。でも……実態を知らず、ただ数字だけで区切られるのは、なかなか納得がいかなくて」