(※写真はイメージです/PIXTA)
デジタル化の影で急増する詐欺、孤立が生む見えざる暴力
デジタル化の進展は、新たな犯罪の温床を生み出しています。その代表格が「クレジットカード情報詐欺」です。過去5年間でクレジットカードなどを持つ人のうち6.5%がこの種の被害に遭っており、個人に対する窃盗(1.5%)や暴行・脅迫(0.8%)といった伝統的な犯罪の被害率を大きく上回る数字です。
この犯罪もまた、その多くが「暗数」となっています。被害を警察に届け出たのはわずか17.2%でした。 届け出なかった理由で突出して多かったのが「カード会社に知らせた(カード会社が対応した)」(88.3%)というものです。 多くの被害者にとって、警察は第一の相談先ではなく、カード会社に対応を委ねるのが当たり前になっています。これは、犯罪が「事件」としてではなく、事業者と顧客間の「トラブル」として処理され、その実態が社会から見えにくくなる構造を生み出しています。迅速な金銭的補償は被害者にとって重要ですが、犯罪の実態が捜査機関に共有されず、根本的な対策が遅れるという側面も否定できません。
さらに、若者層を標的とした犯罪も深刻化しています。インターネット上での誹謗・中傷・個人情報の流布では、被害者のうち「39歳以下」が60歳以上の9.8倍に上る確率で被害に遭いやすいという結果が出ています。 同様に、ストーカー行為や性的な被害も、39歳以下の若年層や女性で被害率が有意に高い傾向が見られました。 SNSが生活の一部となった現代社会において、デジタルの世界が新たな対人リスクの発生源となっていることが、データによって裏付けられた形です。
また外部から見えにくいのが家庭内の犯罪です。配偶者や恋人からの暴力である「DV」の被害率は0.9%、18歳になるまでの「児童虐待」の被害率は2.9%でした。 特に児童虐待では、被害に遭っても「誰にも相談しなかった」と回答した人が65.0%に達し、その理由として「どうしたらよいのか分からなかった」(46.1%)、「相談しても何もしてくれないと思った」(32.9%)が上位を占めました。
日本の「安全神話」が、見えにくいところで崩壊へと向かっている――あおり運転、ネット詐欺、家庭内暴力といった犯罪は、従来の犯罪統計だけでは捉えきれない、現代社会が抱える病巣の表れといえるかもしれません。これらの問題に対処するためには、警察の取り締まり強化はもちろんのこと、被害者が声を上げやすい相談体制の整備、デジタル社会における新たなルールの構築、そして何より、社会的な孤立を防ぎ、誰もが助けを求められるコミュニティを再構築していくことが不可欠です。
[参考資料]