
これが父さんの給料?明細書が示す、年収1,000万円の「現実」
数日後、リビングのテーブルの上に、健司さんが置き忘れたのであろう給与明細書が封筒から半分覗いているのが目に入ったという佑都さん。普段なら気にも留めませんが、100万円という大金を快諾してくれた父が、一体どれほどの収入を得ているのか、ふと興味が湧きました。そして、そっと手に取り、記載された数字に目をやった佑都さんは、思わず息を呑みます。
そこに書かれていた「総支給額」の欄には「65万円」、その隣に記載された「差引支給額」には「45万円」。手取りの金額は想像をはるかに下回るものでした。
厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』によると、大企業の課長職(大卒・40代後半・男性)の平均給与は月収で62.9万円、年収で1,062万円。健司さん、大企業勤務の課長平均よりも多くの給与を手にしていると考えられますが、額面どおり受け取れるわけではないことは、サラリーマンであれば誰もが知るところ。
【月収65万円サラリーマンの手取り額】
額面収入:650,000円
手取り額:455,992円
(内訳)
所得税:52,595円
住民税:40,631円
健康保険:32,207円
厚生年金:59,475円
介護保険:5,200円
雇用保険:3,900円
※上記はあくまでもモデル給与であり、実際とは異なる場合があります
総支給額から、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料といった社会保険料に加え、所得税、住民税が何重にも差し引かれ、その合計額は20万円を優に超えている……佑都さんが漠然と「父さんの給料」だと考えていた金額と、実際に銀行口座に振り込まれる金額との間には、あまりに大きな隔たりがあったのです。
100万円の塾代は、父の手取り月収の2ヵ月分以上。あの静かな「わかった」のひと言には、どれほどの重みが込められていたのか。佑都さんは、初めてその事実に気づかされたのです。
その日の夕食、佑都さんはやけに口数が少なかった。健司さんが「予備校はどうだ?」と尋ねても、「う、うん。順調だよ」と歯切れの悪い返事しかできません。自分が当たり前のように享受してきたこの生活が、決して当たり前ではないこと、そして父が黙って背負ってきた責任の重さを、給与明細の数字が生々しく突きつけたのです。
「お父さん、いつもありがとう」。食事の終わり際、ぽつりと呟かれた息子の言葉に、健司さんは少し驚いたような顔。そんな様子をみて密かに微笑んでいたのが、妻・由佳さん。テーブルに置いた給与明細、実は由佳さんが仕込んだものでした。
「今どき、給与明細なんてデジタルですから。息子に当たり前でない現実を知ってもらいたくて、プリントアウトして置いておいたんです。ちょっと刺激的だったようですが」
[参考資料]
厚生労働省『令和6年 賃金構造基本統計調査』