
「すまなかった」…仕事優先の過去を悔やむ日々
大手企業で部長を務め、60歳で定年を迎えた佐藤健一さん(仮名)。40年近く仕事一筋に頑張ってきた証とでもいうのでしょうか、定年とともに手にした定年退職金は4,000万円と破格。さらに5年後には年金月20万円支給される予定。同年代の多くが、定年から年金支給までの無収入期間を憂いて、再雇用で引き続き働くことを選ぶのに対し、佐藤さんはもう働かなくてもいい立場だったといえるでしょう。
悠々自適な老後が約束されている――それでも佐藤さんは、定年前に打診された関連会社の顧問の話を快諾し、60歳以降も働くことを選択しました。
「自分がやってきたことが、少しでも役に立つのであれば、という思いと……結局、仕事以外にやることが思いつかないんですよ」
そう笑う佐藤さん。定年前よりは緩やかな勤務体系とはいえ、隠居生活はまだ先のよう。多忙な日々を前に、妻の洋子さん(仮名・58歳)は、少し寂しそうな顔をしながらも、「あなたが元気でいてくれるなら」と、夫の新たな門出を静かに応援してくれたといいます。
そんなエピソードを聞いた元同僚らは「仕事ができるのは奥さんのおかげだろ。きちんと奥さん孝行しているのか?」「仕事ばかりしていると、愛想つかされて捨てられるぞ」などとアドバイス。「たまに妻とゆっくり温泉でも行くよ」と返す佐藤さんですが、夫婦水入らずの温泉旅行が叶うことはありませんでした。
それは、暑い夏の日だったといいます。その日は、いつもより少し早く帰宅しました。そのようなときは「あら、早いのね」と夕食の準備をしている洋子さんがいそいそと迎えてくれるのが常でした。しかし、いくら玄関チャイムを鳴らしても、洋子さんは出てきません。そういえば、部屋の灯りもついていない。出かけているのだろうか――そう思いながら玄関の鍵を開け家の中に入ると、健一さんは目を疑いました。