家を建てる。それは多くの人にとって、人生でもっとも大きな決断のひとつです。だからこそ、そこに込めた「思い」と「現実」のズレは、ときに計り知れない代償をもたらします。
この家が家族を壊した…「4,000万円で二世帯住宅」を建てた〈年金月18万円〉68歳元会社員、地獄の同居生活「こんなはずじゃなかった」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「あと1,000万円」をケチったばかりに…始まった「音」をめぐる攻防

定年退職を機に、築40年の戸建てを建て替えることにした鈴木正雄さん(68歳・仮名)。退職金と自己資金を合わせ総額4,000万円を投じて、長男家族との二世帯住宅を建てることにしました。

 

「息子夫婦は家賃が大変そうだったので、息子夫婦に『費用はこちらで持つから』と言ったら喜んでくれたし、何よりも可愛い孫にいつでも会える。まさに一石二鳥だと思いました」

 

建築会社から提案されたのは、玄関のみを共有し、キッチンや浴室といった水回りは各世帯で独立させる「一部共有型」のプラン。完全分離型にすると、さらに1,000万円ほどの追加費用がかかるといわれ、正雄さんは迷わずこのプランを選びました。4,000万円と、5,000万円では大きな差。「玄関くらい一緒でも構わないだろう」という軽い気持ちもありました。

 

新居での生活がスタートして数ヵ月。当初、孫たちの賑やかな声に喜びを感じていた鈴木さん夫婦でしたが、次第に二世帯住宅ならではのデメリットを感じ始めます。それは「生活音」。早寝早起きの正雄さん夫婦に対し、共働きの長男夫婦は帰宅も遅く、生活リズムは真逆。夜10時を過ぎても走り回る孫たちの足音、深夜に響く洗濯機の稼働音、若者たちの笑い声……。できるだけ隣接する壁は収納や水回りで隔てるような間取りにしましたが、それでも音は伝え、漏れてきます。

 

「壁一枚隔てただけなので、テレビの音まで聞こえてくる。耳を澄ましたら、という微々たるものですが、ひとつ屋根の下で暮らしているからでしょうか、どうしても気になる。息子たちに窮屈な思いをさせたくないという気持ちもあって我慢してしまう。妻とは毎晩のように『これがあと何十年も続くのか』とため息をつくこともある」

 

我慢を続けるなんて……地獄。しかし、その我慢は長くは続きませんでした。ある夜、堪忍袋の緒が切れた正雄さんが、壁を叩いて静かにするよう合図したことをきっかけに、両世帯の関係はよそよそしいものに。

 

「自分たちの家なのに、なぜこんなに気を遣わないといけないのか」

 

そんな空気が両家から漂います。そして玄関が共通の間取りのため、パタリと顔を合わせたときの何ともいえない気まずさ――「1,000万円をケチらないで、完全分離型の間取りにしておけば」。そんな後悔も今さらです。