離婚時に交わした養育費や財産分与の取り決め。公正証書を作成し、法的な備えも万全――それでも貧困に苦しむ母子世帯。限界に追い込まれていく人たちの現実とは?
逃げられたら終わりです…「月収17万円」35歳2児の母、離婚2年後に待っていた「通帳残高978円」の地獄 (※写真はイメージです/PIXTA)

権利があっても執行にはお金がかかる

養育費の滞納に苦しむ中村さんは、藁にもすがる思いで弁護士に相談しました。公正証書があるから大丈夫、強制執行ができるはず――そう期待していましたが、現実に絶望したといいます。

 

「確かに、公正証書があれば強制執行は可能です。しかし、そのためには相手の勤務先や財産状況を調べる必要があります。調査費用や手続き費用、弁護士費用もかかります。いくら徴収できる権利があっても、手続きするための費用が高額で……結局、泣き寝入りするしかありませんでした」

 

養育費が振り込まれなくなった今、給与日前のある日、預金通帳を確認すると、わずか978円。「これでは弁護士に相談なんていう水準じゃない。もう私には何かする手だてはない」と肩を落とす中村さん。万が一の滞納に備えて公正証書を作成するなど準備万端であっても、権利を執行することは容易ではない――それが離婚の現実です。

 

「権利があったところで、逃げられたら終わりですよ」

 

厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』によると、養育費の取り決めを行った母子世帯は46.7%の50万4,086世帯。また取り決めを行った世帯のうち、76.6%は文書がある一方で、4分の1は文書なし、という状況です。

 

また養育費の受給状況をみていくと、「現在も養育費を受けている」は全体の28.1%の30万3,252世帯。このなかには、養育費の支払い期間を過ぎたケースもあるので一概に差異=養育費が支払われなくなった数といえませんが、養育費の未払いが特別ではないことを示唆しています。

 

母子世帯で養育費を受けている割合は28.1%に過ぎません。さらに、養育費の取り決めをしているにもかかわらず、まったく支払われていない、あるいは一部しか支払われていないケースも多く存在します。

 

また厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、母子世帯の総所得は328.2万円、そのうち仕事による所得(稼働所得)は270.6万円。これは全世帯平均の総所得では6割、稼働所得では7割弱にとどまります。収入が低いうえ、養育費ももらえない……母子世帯の家計がいかに厳しいか、想像に難くありません。

 

養育費の強制執行をより簡便に、かつ費用を抑えて行えるような制度の見直しが必要だという意見は多く聞かれます。子どもたちの未来を守るためにも、養育費が確実に支払われるような社会の実現が強く望まれています。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告』

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』