孤独死と聞くと、高齢者の問題と思われがちです。しかし警察庁の最新調査から、年間約1.8万人もの現役世代が自宅でひっそりと亡くなっていることがわかりました。本記事ではSさんの事例とともに、孤独死問題について就職氷河期世代に焦点を当て、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
俺もそのうち誰にも気づかれず死ぬのか…実は多い「現役世代の孤独死」 年収270万円・氷河期世代52歳男性の鈍痛【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

天涯孤独の53歳、就職氷河期世代の絶望と老後

パートや派遣労働など、仕事は30回以上変わりました。正規雇用の面接も何度も受けましたが、年齢を重ねるごとに面接さえしてくれず、面接までこぎつけたとしても最初から「Sさんを採用できない理由」を説明されるだけのことも。

 

2020年からのコロナ禍では当時勤めていた飲食店が倒産し、2年間無職となりました。偶然宝くじが100万円当たり、餓死せずに済みました。現在はショッピングモールのフードコートで、お好み焼きを売る店でパートをしていますが、ショッピングモール自体の撤退の噂があり、そうなったら解雇されるのは間違いありません。

 

非正規とはいえ面接のときの履歴書に、自分の出身大学を書くのがもう嫌でしかたありません。必ず面接官は「この大学を出ていままでなにをしてきたの?」というニュアンスのことをいうからです。いつのころからか、面接官は自分よりも10歳以上年下に。

 

「お前らには就職氷河期のことなんかわからないよ」と心のなかで叫んでいます。

 

コロナ禍の時期に、父親も母親も相次いで亡くなりましたが、どちらも葬式には行きませんでした。東京から来たというだけでバイ菌かのような扱いをする時期だったのです。妹がいましたが、15年ほど前にガンで亡くなってしまいました。

 

女性と交際したのも、大学生のときが最後。自分のような人間が視界に入るだけでセクハラ扱いされるだろうという被害妄想も強く、年齢問わず女性が苦手です。

 

いまのSさんは天涯孤独の立場です。Sさんはもう正規雇用の就職は完全に諦めています。少なくとも75歳までは働き、食いつながなければならないと覚悟をしています。幸い厚生年金だけは加入しているので、わずかながら年金を受け取ることはできそうですが、貯金ゼロのままでは老いても働かなければならないでしょう。

 

実家の建物と土地を売ってお金にしようと思いましたが、買い手はつきませんでした。むしろ固定資産税を払うのはSさんです。実家に住めば家賃が不要かもしれませんが、Sさんが就ける仕事などありません。それに車を買うお金はないので、やはり実家は無理です。

 

飲食業で働いているおかげで、昼食はまかないを食べることができます。夜も職場から持ち帰りができるのはいいことですが、確実に栄養が偏っています。最近、体調が優れず一日中店に立つことがしんどいことも多くなりました。53歳という年齢以上に健康状態がよくないことを自覚しています。

 

夜眠るとき、もしかしたらこのまま死んでしまうのかもしれないな……と毎日考えてしまいます。死んだらたぶん、誰も気づかない。無断欠勤として仕事はまた解雇になり、自分はこの部屋で腐乱していくだけ。「自分も隣人のように一人で逝く」隣人のように残置物を整理してくれる人もいません。せめて大家さんが孤独死保険に入っていてくれたらいいなと思うだけです。

 

「就職氷河期世代というけど、自業自得だ」という人たちまでいます。確かに自分の落ち度も少しはあるものの、最初につまずいた原因は決して自分のせいではないはずです。バブル崩壊後から30年もこの世代の貧困と苦難を放置してきて、社会の重荷になるとわかると慌てやがって……Sさんは悔しさと諦めで、人生になにも期待を持たずにいまも生きているのです。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表