孤独死と聞くと、高齢者の問題と思われがちです。しかし警察庁の最新調査から、年間約1.8万人もの現役世代が自宅でひっそりと亡くなっていることがわかりました。本記事ではSさんの事例とともに、孤独死問題について就職氷河期世代に焦点を当て、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
俺もそのうち誰にも気づかれず死ぬのか…実は多い「現役世代の孤独死」 年収270万円・氷河期世代52歳男性の鈍痛【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

会社に切り捨てられ、辛酸をなめた20代

4月から営業マンとして自動車ディーラーに勤務したSさん。アルバイトで培ったコミュニケーション能力が営業マンに向いていたのか、当初から好業績を出すことができました。しかし、次第にその会社に蔓延する異常な慣習に驚くことに。

 

値引きを調整するために客に無断で注文書を書き換え偽の捺印をしたり、車庫証明書に使う使用承諾書を偽造したり、下取りをするとみせかけ業者に横流ししたり、板金修理をする車をさらに傷をつけ修理費を保険会社に請求したり……。最初は驚いていたSさんでしたが、次第に職場の雰囲気にのまれ、それらの不正に主体的に加担するように。

 

業績を出したい気持ちも加わり、不正に慣れてしまい、上司からは仕事ができるなどとからかわれることもありました。ただ、それでも年収は370万円だったのですが。

 

ところが入社から3年後、ある不正が客にばれてしまい訴訟沙汰になると、上司も会社もあたかもSさん個人の悪事であるかのようにふるまい、簡単に懲戒解雇をされてしまいました。ほとんど全員が同じような不正行為に加担していたのにも関わらず、です。

 

「レベルが低い田舎の会社で頑張ってしまうからこうなったんだ……」とため息をつくSさん。

 

退職金も支払われず放り出されてしまったSさんは当時26歳。1997年のことです。日本経済はさらに不景気となっていました。転職活動はまったくうまくいきません。父親からは「仕事なんかいくらでもある、なぜ選り好みするのか」といわれるたびに口論となりました。

 

「仕事がいくらあっても、社員のことなんて奴隷として思っていないような会社しかないんだよ。親父にはいまの時代のひどさがわからない」そういっても父親は「言い訳するな」と説教をするばかり。耐えきれなくなったSさんは、クレジットカードのキャッシングで50万円を借り、再び東京に引っ越すことにしました。東京なら田舎よりもまだ多少はまともな仕事に就けると思ったのです。

 

しかし時代はそれを許してくれません。さらに雇用保険の被保険者証には懲戒解雇の履歴が残っている状態です。二重苦となったSさんが働けるのは、非正規の仕事だけ。