孤独死と聞くと、高齢者の問題と思われがちです。しかし警察庁の最新調査から、年間約1.8万人もの現役世代が自宅でひっそりと亡くなっていることがわかりました。本記事ではSさんの事例とともに、孤独死問題について就職氷河期世代に焦点を当て、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
俺もそのうち誰にも気づかれず死ぬのか…実は多い「現役世代の孤独死」 年収270万円・氷河期世代52歳男性の鈍痛【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

安アパート、隣人の孤独死

<事例>

Sさん 53歳男性
職業 飲食店勤務(パート)
年収 270万円 未婚
貯蓄額 0円
任意整理の経験あり

 

Sさんは長野県生まれの53歳です。住まいは東京都郊外にある築37年のアパート。仕事はショッピングモールのお好み焼き店でパート従業員をしています。年収270万円。払える家賃はせいぜい3万円が限界です。

 

Sさんが借りているのは築年数が古いだけではなく、前の入居者が自殺をしたという訳アリ物件です。そのおかげで家賃は3万円。居室は洋室6畳で、風呂もトイレもついています。それなりに清潔なので訳アリなのは忘れることにしています。

 

4月初めの桜が咲き始めたころ、Sさんの部屋の隣人が孤独死をしているのが発見されました。隣人といっても、Sさんはその姿をみたことがありません。このアパートに6年住んでいますが、一度も顔をみたことがなく、生活音も聞いたことがなかったのです。

 

しかしSさんが異常に気付いたのは、3月の初めころ。悪臭がどこかからするようになったのです。なにかが腐っているのではないかと冷蔵庫や浴室の配管などを確認しましたが、違うようです。暖かくなるにしたがって悪臭はさらに激烈に。形容しがたい、人生で一度も嗅いだことがない臭いです。床下の基礎のなかで小動物でも死んでいるのかと思いましたが、ある日気づいたのです。

 

隣の部屋の玄関先を通りかかるときに最も強く臭うことに。そっと玄関ドアに近づいてみると、鼻の奥を突き刺すような臭いが。脳が全力で拒否しているのがわかるような悪臭です。

 

大家の高齢男性が近隣に住んでいるため、走っていき隣の部屋の異常を伝えました。するとすぐに大家は警察官とともにアパートにやってきて、玄関を開けてみたところ……頭を玄関に向けて男性が倒れていました。

 

「Sさん、みないほうがいい」と警察官にいわれたため、さっと離れましたが、死後相当な日数が経っていることが素人でもわかりました。警察官に通報までの経緯を質問されましたが、現場の状況は教えてくれませんでした。

 

しかし、現場検証が終わった数日後、ひとりの女性が隣室で整理をしているのをみかけました。玄関ドアを開けているので、まだきつい臭いが漂ってきます。きっと亡くなった方の親族なのだろうと思い、目を合わせず通り過ぎようとしたのですが、女性に声をかけられてしまいました。

 

孤独死した男性のお姉さんとのこと。沈痛な面持ちでしたが、Sさんに迷惑をかけたことを詫びていました。話によると、隣人の男性は49歳で無職だったそう。宮城県出身で東京の大学に進学しましたが、不景気が始まった時代で就職活動に失敗したようです。

 

不本意でしたがパチンコ店に勤めたものの、同僚と喧嘩になって殴られ、左目を失明する大怪我をして退職。それからは非正規の仕事を転々としていたようですが、45歳ごろに糖尿病に。高血圧もありましたが、いずれも病院にはもう行っていませんでした。

 

「重度のうつ病もあって働けなかったみたいです」とお姉さんがいいます。「たぶん、風邪をひいたのか総合感冒薬を飲んだのでしょう。血圧が急上昇して脳出血したみたいで……苦しさのあまり部屋の外に出ようとしたのかもしれません。しかし玄関で倒れてしまい、嘔吐物がのどに詰まって息絶えたみたいです」だから玄関に倒れていたのか……と納得しました。

 

正月にはお姉さんに年始の挨拶のメッセージを送っていたので、亡くなったのはその後。玄関で亡くなっているなか、Sさんは普通に生活をしていたことになります。暖かくなって腐敗が進み、気づいたのでしょう。