30代になると世帯を持つことをきっかけに、生命保険などで将来のリスクに備えようと考える人も増えてきます。しかし、世帯を持つことなど、多くの人はきっかけがなければ行動に移しづらいもので……。本記事では、木村健太さん(仮名)の事例とともに、若年層のライフプランの考え方についてFP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
四国で農家を営む年金月7万円〈60代父〉急死…1年ぶり帰郷の〈30代長男〉実家で発見した「朱色の手帳」の中身に涙【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

故郷からの突然の電話

ところが年末、健太さんのもとに実家から電話が入りました。日中、仕事中であることがわかっている時間に実家から電話があることは滅多になかったので、胸騒ぎを覚えながら応じると、母親の泣きじゃくる声が聞こえてきました「お父さんが……。お父さんが急に……」。

 

信じられない思いで話を聞くと、前日まで畑に出ていた父親が、その日の朝、突然倒れてそのまま帰らぬ人になったというのです。死因は心筋梗塞でした。65歳から月7万円の年金を受け取りながらも、元気いっぱいに農作業を続けていた父親の突然の訃報に、健太さんは言葉を失いました。

 

いつもならお盆と年末の年2回は必ず帰省していた健太さんでしたが、昨年は仕事の繁忙期と重なり、お盆の帰省を断念していました。「あのとき、無理をしてでも帰っておけば。土日でも短い連休のときでも、帰れるタイミングがないわけでもなかったのに……」後悔の念が押し寄せます。

 

四国へ帰郷した健太さんを待っていたのは、憔悴しきった母親と、茫然自失としている祖母でした。家の中に入ると、普段はきちんと整理整頓されていたはずの家が、まるで時間が止まってしまったかのように、父親が最後に使っていたものがそのままになっていたのです。

 

食卓には食べかけの朝食が置かれ、脱ぎっぱなしの上着が椅子の背もたれにかけられています。父親が生前好きだったお酒とタバコが酒屋のレジ袋に入ったまま、無造作に床に転がっていました。

 

変わり果てた実家の様子に胸が苦しくなりました。葬儀が終わり、家族で父の遺品整理を行っているときに、ふと朱色の手帳が目に留まります。何気なく手に取って開いてみると、そこには几帳面な文字でびっしりと、作物の栽培記録だけでなく、毎月の家計簿、そして健太さんと妹の彩乃さんの学費の記録などが詳細に記されていたのです。パラパラとめくっていくと、「健太・彩乃 米5キロ、ミカンひと箱ずつ」と記載があり、今年送ってくれた分だなとわかりました。そして数週間前の日付のページには、こう書かれていました「健太と彩乃に負けず、父さんもまだまだ頑張るぞ!」。

 

健太さんは込み上げる涙をとめることができませんでした。父親は年金を受け取りながらも、家族のために、そして遠く離れて暮らす自分たちのために、ずっと農作業を続けてくれていたのだと。そしてその頑張りの裏には、もしものことがあったときの家族の生活を案じる、深い愛情があったのだと。

 

母は父の遺した生命保険金を受け取りました。当面の生活に金銭的な問題はなさそうです。

 

「生命保険か……。俺が、働けなくなったり万一のことがあったりしたらどうなるのかなぁ。本当に結婚してから加入すればいいのだろうか……」

 

自身や家族の将来が気にかかる健太さんでした。

 

「俺は農家を継ぐ気はないが、父さんがいなくなって、農業はどうするんだろう。妹は、そのうち結婚するだろう。もしも俺が入院したとしても、1ヵ月くらいで会社に戻れるならどうってことはないか。じゃあ、半年とか1年とかになったら? もとの仕事はできないとかなら、会社を辞めるのか? 家賃が払えなくなったら実家に戻るかも……。戻ってからの生活費は? 父さんのように、突然俺に万一のことがあったら、母さんやおばあちゃんは困るだろうな」近ごろの健太さんは、自分は、いまは独身ではあるけれど、生活の保障は無関係ではないと考えるようになったそうです。