(※写真はイメージです/PIXTA)
まさかの場所で元部下と遭遇
東京郊外のとある駅。少し離れた静かな住宅街の一角にある居酒屋で、思わぬ再会がありました。仕事帰りにふらりと立ち寄った40代の会社員・斉藤さん(仮名)は、注文を取りに来た店員を見て驚きます。落ち着いた口調、どこか誇りを感じさせる立ち居振る舞い。顔をよく見ると、それはかつて勤務していた建設会社で部長を務めていた岡田達也さん(仮名・66歳)でした。
岡田さんといえば、社内では現場から這い上がり、部長にまで上りつめたたたき上げ。「最高月収200万円」とも噂され、数十人の部下をまとめる存在でした。社内外の人間関係も広く、常に余裕を感じさせる振る舞いをしていた人物です。斉藤さんにとって、絶対的な上司である岡田さんが、今は居酒屋のアルバイト店員として客の注文を聞いている――にわかには信じられなかったといいます。
「なぜ岡田部長がここで――」
その疑問を率直にぶつけると、岡田さんは少し苦笑しながら「いろいろあってね」とだけ答えました。
仕事人間だった元部長、予想外の熟年離婚
岡田さんは60歳定年後、企業の顧問を務めたのち65歳で完全リタイア。その後の老後は年金と退職金、そして貯蓄で暮らせると考えていました。
ところがその矢先、長年連れ添った妻から突然「離婚したい」と告げられます。妻は長年、義母(岡田さんにとっては実母)の介護を献身的に行い、最期まで看取ってくれました。岡田さんとしても妻には頭が上がらない、これからは妻孝行をしなければ、と思っていた矢先のこと。まさに青天の霹靂だったといいます。
「この先、一緒に生きていけない」
離婚理由を尋ねたとき、そういわれたという岡田さん。現役時代に仕事中心の生活を送り、家庭を顧みなかったこと、さらに介護を必要とする母親に対して仕事ばかりで関心が薄かったことに対して、強烈な違和感を覚えたといいます。
「人間性を疑う人と生きていくことなんてできません」
離婚に伴い、財産は基本的に2分の1ずつに分与。退職金、預貯金、持ち家なども例外ではありません。30代前半で購入したマイホームは売却。新たに借りたワンルームでの一人暮らしが始まりました。