(※写真はイメージです/PIXTA)
定年後の現実と向き合う
老後の生活設計をしっかり立てられないまま、「教育費が終わったら何とかなる」と思い込んでいた藤井さん。60歳になり、いざ定年後の生活を具体的に考え始めると、現実を前に愕然とします。嘱託社員としての収入は現役時代の半分以下。一方、夫婦二人の生活費は急激に減るわけではありません。食費、光熱費、通信費、そして年に数回の医療費や冠婚葬祭費など、最低限かかる費用を計算すると、毎月の収入だけでは賄いきれない月も。
これまで教育費に消えていた分をそのまま老後資金に回せばいい――残念ながら、大幅な収入減を前には想定通りにはいかず、資産形成も加速させることもできない。これが藤井さんが直面した、定年後の現実でした。
金融庁の「高齢社会における資産形成・管理」報告書(2019年)が示唆した、公的年金に加えて約2,000万円の老後資金が必要になるという試算は大きな波紋を呼びました。もちろん、この金額は当時の家計調査を用いた試算でしかなく、個々人の生活スタイルや公的年金の受給額によって必要な額は異なります。しかし、藤井さんのように現役時代の貯蓄がほとんどない場合、この2,000万円という数字は途方もなく大きく感じられるでしょう。
「このままでは破綻してしまう――まさか自分が老後破綻を自分事として語るようになるなんて」
将来を悲観するしかない現実を前に、悲鳴をあげるしかない藤井さん。「子の教育はもちろん大切。しかし身の丈にあったものではなかった。愚かといわざるを得ない」と、ただただ後悔を口にしています。
藤井さんの状況は、決して他人事ではありません。多くの人が、子育てと住宅購入という大きなライフイベントに追われるなかで、自身の老後資金の準備が後回しになってしまいがちです。そして、いざ定年を目前にすると、老後資金の不足という厳しい現実に直面することになります。
藤井さんのように後悔しないためには、早期からの計画的な資産形成が不可欠です。子どもの教育に力を入れることも大切ですが、自身の老後資金とのバランスを考える必要があります。また、定年後の働き方についても、漠然と考えるのではなく、早い段階から情報収集を行い、どのような働き方が可能なのか、どれくらいの収入が見込めるのかを具体的にシミュレーションすることが重要です。
[参考資料]
ソニー生命保険株式会社『子どもの教育資金に関する調査2025』
金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査』