
大学進学のために上京した長男…ゴールデンウィークに帰省したが
地方のメーカーで働く、里中直樹さん(仮名・48歳)。昨年の春、長男・拓海さん(仮名)が東京の大学に進学し、生まれて初めて親元を離れて一人暮らしを始めました。子どもの成長は嬉しいものですが、月収45万円ほどのなかで毎月10万円を仕送りするのが大変――それよりも、我が子が慣れない環境でちゃんとやれているだろうか、という不安は大きなものだったといいます。
そして5月のゴールデンウィーク、拓海さんが実家に帰ってきました。3月末に送り出して1ヵ月強。里中さん夫婦にはとても長い時間でした。拓海さんも地元の友人と会ったり、家族でのんびりしたりと、楽しそう。親としても、元気そうな息子の顔を見られて安心したと語ります。
ところが、連休が明けても、拓海さんは東京へ戻る気配がありません。里中さんは、最初は少し長く休みを取りたいのかな、と思っていましたが、日が経つにつれて少しずつ不安になってきました。
「もう休みも終わりなのに、いつまでいるんだろうか。大学の授業は始まっているはず――」
里中さんの心には少しの疑問と、ひょっとしたら何かあったのかもしれないという予感が芽生えていました。意を決して、「そろそろ大学、大丈夫なのか?」と拓海さんに声をかけたときのこと。それまで少し元気がないようにも見えた拓海さんが、突然ポロポロと涙を流し始めたのです。48歳にもなる父親の前で、まるで子どものように泣きじゃくる息子の姿に、里中さんはただ狼狽するばかりでした。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」と里中さんの問いかけに、息子は嗚咽をこらえながら、ポツリポツリと話し始めました。
「大学に……居場所が……ないんだ……」
大学入学式のあと、学科ごとにオリエンテーションが行われましたが、拓海さんは体調不良のため欠席。病み上がりに大学にいくと、すでにいくつかのグループができていたといいます。完全に乗り遅れた拓海さん。現在に至るまで、大学に行っても誰かと話すこともなく、ただ授業に出て帰るだけ。サークルに入る勇気もなく、アルバイトもいまだ決まらず。期待に胸を膨らませて上京したものの、大学と一人きりのアパートを往復する毎日だというのです。
「地元の友達は、みんな楽しそうに大学生活を送ってるのに。俺だけ――」
息子は、LINEやSNSで見る地元の友達の楽しそうな投稿を見るたびに、自分が惨めな気持ちになるといいました。華やかな「大学デビュー」とは程遠い現実が、拓海さんを深く傷つけていたのです。そして、ゴールデンウィークで帰省し、慣れ親しんだ地元や家族との温かい時間を過ごしたことで、東京での孤独感がより一層浮き彫りになってしまったのでした。
一般社団法人全国大学生活協同組合連合会が実施した『第60回学生生活実態調査』によると、大学生の日ごろの悩みとして「対人関係がうまくいかない」が12.1%。学年ごとにみていくと1年生が15.2%で、進学するごとに数字は低下していく傾向にあります。そのなかには拓海さんのように、「友人関係が少ない・浅い」「気軽に話せる人がいない」という悩みを抱える大学上京組も少なくないのでないでしょうか。