退職金や預貯金に安心し、仕事を辞めたその先に待っているのは、本当に自由な老後なのでしょうか。安定した老後資金といわれる数千万円も、判断を誤れば一瞬で消えかねないのが現実です。
人生最大のミスでした…「退職金2,300万円」「貯金3,000万円」がゼロ同然に。「もう働かなくてもいいよね」と60歳で仕事を辞めた独身・元公務員男性、わずか6ヵ月で直面した想像を超える悲劇 (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者を狙う甘い罠、安易な決断が招いた悲劇

しかし、その順風満帆な状況は長くは続きませんでした。購入から約半年後の3月、4月の引っ越しシーズンを迎えると、それまで堅調だった入居者の退去が相次ぎ始めたのです。気づけば、アパートの入居率は1割程度まで落ち込んでしまっていました。

 

まさに、青天の霹靂でした。最初の不動産会社に相談するも、積極的な入居者募集活動が行われているようには見えず、対応に不満が募りました。家賃収入が激減したことで、維持・管理費の持ち出しが増え、手元の預貯金が目減りしていくスピードに恐怖を感じ始めます。

 

このままではいけないと考えた清水さんは、アパートの売却を申し出ました。しかし、空室だらけのアパートは買い手が見つかりにくく、最初の不動産会社からは「この状況では買い叩かれてしまいますよ」と、なかなか積極的な売却活動をしてもらえませんでした。「退職金と貯金で、5,000万円以上もあったはずのお金が、このままではゼロになってしまうのではないか――」。かつての豊かな資産は、わずか半年で砂が流れ落ちるように減少し、ゼロ同然になっていく現実が目の前に迫っていました。

 

結局、最初の不動産会社に見切りをつけ、別の不動産会社に相談した結果、ようやくアパートを売却することができました。しかし、売却価格は購入価格の2分の1程度。元々それだけの価値しかなかった――ということのようです。さらに持ち出しや売却にかかった諸費用などを考えると、手元に残ったのはごくわずか。「蓄えなんてゼロ同然」」と自虐する清水さん、決して大げさな表現ではないようです。

 

今回の清水さんの例がそうだったかは不明ですが、「満室経営」をうたう不動産が、実は“さくら”で、契約が決まってからしばらくすると、次々と退居が決まり、短期間で「入居率ゼロ%」――そんな悪徳不動産会社の話も。資産形成を強力に推し進めることができる不動産投資ではありますが、同じように悲惨な話は多いようです。

 

また清水さんのような高齢者の消費者被害は増加傾向にあります。たとえば、独立行政法人国民生活センターによると、2023年の相談件数は89万件。契約当事者の年齢は70代が多く24.2%。60代と合わせると4割弱にもなります。高齢者からの相談件数は毎年高い水準で推移しており、そのなかには「投資」に関する相談も少なくありません。

 

「定年後の資産運用は重要だという意識は、今も変わりません。ただ同時に、安易な営業トークに乗せられ、ろくに物件や契約内容を確認せずに大金を投じてしまった自分自身の未熟さを痛感しています」と清水さん。「確かに騙されたようなものですが、一番いけなかったのは、働く必要はないと油断し、勉強もせずに安易な決断をしてしまった自分です」と続けます。

 

セカンドライフにおける資産形成は、多くの人が直面する課題です。しかし、知識がないまま、あるいは安易な情報だけで判断することは、清水さんのように大切は資産を失うリスクを伴います。自身の老後資金を守るためには、情報収集を怠らず、複数の情報源から知識を得ること、自身で納得がいくまで考え抜く姿勢が不可欠です。

 

[参考資料]

独立行政法人国民生活センター『2023年度 全国の消費生活相談の状況-PIO-NETより-』