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行方不明者の5人に1人が認知症…最悪の結末に至ることも
後日、病院を受診したところ、認知症と診断されました。まだ初期段階ではあるものの、この現実を突きつけられ、一番ショックを受けていたのは、清さん自身だったのかもしれません。しばらくの間、家から出ることを怖がるようになったのです。道に迷ったあの日の記憶は断片的ながら残っており、自尊心を大きく傷つけたことがうかがえます。
真由美さんは語ります。
「父は元警察官で、誰かを守る立場だった人。その父が“保護される側”になったことを、受け入れきれない様子でした」
その後、GPS付きの見守り端末を導入。本人がどこにいるかを家族が把握できる体制も整えました。また、最寄りの交番や地域包括支援センターとも連携し、情報共有を行うようにしました。こうした取り組みは、高橋さんのように突然行方不明になるリスクを抱える高齢者にとって、まさに命綱といえる対策でしょう。
警察庁が公表したデータ(2023年)によると、1年間で行方不明とされる9万0144人のうち、認知症患者の行方不明は1万9039人で、全体の21.1%を占めています。 また所在が確認されたのは1万8221人で、1万3517人が届け出がされた当日に確認に至っています。一方で1カ月以上も所在が確認できなかった例が39もありました。また553件は残念な結末を迎えています。今年、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれており、認知症による徘徊や事故は今後さらに増加すると考えられています。
清さんはまだ記憶がはっきりしているときも多く、自身が認知症であることを受け入れられない様子です。また、かつて警察官として市民の安全を守る立場だった自分が、今は守られる側にいる――その変化を受け入れ難いようでした。そのため、ご家族は本人のプライドを傷つけないよう配慮しながら、日々の様子をさりげなく見守り、変化があれば専門機関へ相談する体制を整えています。
「父の変化には、実は1年ほど前から気づいていました。でも、『まさかそんなはずはない』と思い込もうとしていたんです。今思えば、その『まさか』の積み重ねが、本当に危ないところでした」
現在では、地域で利用できる支援サービスを積極的に活用しながら、清さんの生活を支えています。週に数回のデイサービス利用や見守りセンサーの導入、そして近所の民生委員との連携――こうした地域とのネットワークが、一つの安心材料となっています。
「父の『無様だな』という言葉が、ずっと胸に残っています。でも、私は父が無様だなんて思いません。ただ、私たち家族が知らなかっただけ、分かっていなかっただけ。これから学んでいくのが、家族の役割なのかもしれません」
厚生労働省の『認知症施策推進大綱』では、地域包括ケアや認知症サポーターの育成など、地域ぐるみで認知症患者を支える仕組みづくりが提唱されています。家族だけにすべてを背負わせない体制の構築は、これからの日本社会にとって欠かせない視点といえるでしょう。
[参考資料]
警察庁『令和5年における行方不明者の状況』
厚生労働省の『認知症施策推進大綱』