老後は自由な時間を楽しみたい――そう考えるのは、ごく自然なことです。長年働き、家庭や社会に貢献してきた人たちが、引退後に自分のための時間を大切にする。しかし、その自由の裏には、想定を超える経済的リスクが潜んでいることもあるようです。
好きに生きようと思っただけなのに…「年金月23万円」68歳の元教師、教壇を降りてから3年で「貯金1,500万円」を失った「まさかの理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の自由が招いた想定外の出費とは

68歳の田中誠さん(仮名)は、長年中学校の教師として勤め上げたのち、定年退職後も再任用制度を利用して65歳まで教壇に立ち続けました。教職に身を捧げ、家族や自分の趣味も後回しにしてきた田中さんにとって、退職はまさに「第二の人生の始まり」だったといいます。

 

退職金と年金月額23万円。数字だけ見れば、老後の生活は比較的安定しているように思えるかもしれません。しかし田中さんは、退職からわずか3年で1,000万円もの貯金を減らす事態に陥ってしまいました。

 

最初のきっかけは、自身が我慢してきた趣味でした。若い頃から好きだったゴルフを再開し、全国の有名コースを巡るツアーに参加。さらにゴルフ発祥の地とされるイギリスにも旅行(オランダ発祥という説もあり)。さらにかつて訪れたかった名湯や名勝地をめぐる国内旅行も重ね、これまで抑えてきた分、出費は年々膨らみました。新しいゴルフクラブの購入や、移動のための交通費、宿泊代などが積み重なり、趣味にかけた費用は年間200万円を優に超えたといいます。

 

現役時代は、収入の多くを生活費と貯金に回していた田中さん。長期的な視野で将来を考え、節度ある消費を心がけてきました。しかし退職後、「やっと自由になれた」と感じた田中さんは、これまでの抑制を一気に解き放ってしまったのです。

 

さらに大きく資産を減らす要因となったのは、家族からの頼みごとでした。

 

ある日、娘夫婦から「子どもの教育費が足りない」と相談を受けた田中さん。孫のために力になりたいという気持ちから、私立中学校の入学金や塾の費用などを支援し始めます。最初は一時的なものと考えていましたが、思いのほか出費が重なり、援助は継続的なものとなっていきました。

 

文部科学省『令和3年度 子供の学習費調査(令和3年度)』によると、私立中学校の年間費用は平均で約143万円。これに塾代や習い事を加えると、年間で200万円以上になるケースもあります。田中さんは3年の間に合計で700万円を援助したといい、教育費の現実の重さに直面することになったのです。

 

「孫の将来に投資しているつもりだった」と田中さんは振り返りますが、家計は次第に厳しくなっていきました。趣味への出費と家族への援助が重なり、月々の年金収入ではとても補えなくなっていたのです。