人生100年時代といわれる現代、健康寿命が延びる一方で、老後の住まいや暮らし方に対する意識も多様化しています。かつて「要介護になったら入る場所」と考えられがちだった老人ホームですが、近年、まだ自立した生活を送れる比較的若い高齢者層からの入居希望が増えているという実情も。本記事ではYさんの事例とともに、老人ホームの理想と現実について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
老人ホームなんて入らなきゃよかった…年金月20万円・77歳父「GWに遊びに行くね」と宣言した娘夫婦はハワイ旅行、ぼっちで過ごす大型連休に涙腺崩壊【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

定年退職した日に花束を抱えて帰宅も、妻はもうこの世におらず…

<事例>

Yさん 81歳

年金収入 月あたり手取り20万円

金融資産 4,300万円

 

娘・Kさん 50歳

娘の夫 51歳

孫(男) 22歳

孫(女) 20歳

 

Yさんは81歳。現在、介護付き有料老人ホームに入居して生活しています。

 

Yさんは現役時代、公立高校で国語の教員をしていました。演劇部の顧問も長く続け、高校演劇の世界では脚本家としても名の知れた存在だったようです。しかし現役時代から特に友人もおらず趣味もなく、仕事と部活指導以外には常に妻と一人娘と過ごす父親でした。

 

同じ年だった妻のRさんも公立中学校の教員でしたが、定年退職前の59歳のときに突然脳卒中を発症。職場で倒れ、そのまま亡くなってしまいました。その当時、娘は28歳。すでに結婚し、孫が生まれる直前の出来事でした。

 

Yさんが60歳で退職したときには同居する家族はいませんでした。退職の日に花束をもらって帰宅しましたが、ねぎらってくれたはずの妻はもういません。一人寂しく花を花瓶に生け、妻の仏壇に飾り、いつものように食事をして床についただけ。同じ年の夫婦だったため、同時に退職するはずでした。退職したら京都や北海道に旅行に出かけようと話し合い、楽しみにしていたことを思い出すと、毎日のように涙がこぼれました。

 

定年退職後もYさんは高校演劇の指導者として全国の高校に呼ばれるなど、それなりに充実した日々を送っていましたが、65歳のときに体力の限界を感じ引退。唯一の楽しみは、近所で暮らす孫二人と遊ぶこと。娘が毎週のように孫を実家に連れてきてくれるのです。

 

しかし特に趣味もなく友人もいないYさんは、日ごろはテレビを一日10時間以上見て、ときどき散歩にいくだけの生活です。教員時代はたくさん読んでいた本もすべて処分し、一切読まなくなりました。妻に任せきりだった家事に最初は四苦八苦しながらもこなしていましたが、次第に手抜きに。台所には洗い物が常に積みあがっていました。

 

孫二人も成長するにしたがってYさんの家にはめったに来なくなり、会話することもごくまれです。

 

妻と行く予定にしていた京都と北海道に1人で旅行に出かけたこともありましたが、耐えられないほどの空虚さを覚えました。高級ホテルに泊まったせいか、ホテルには楽しそうなフルムーン旅行の夫婦ばかり目につきます。楽しそうに過ごす様子が羨ましいと同時に亡くなった妻を思い出して悲しくなり、二度と一人旅には行かないと心に決めたほどでした。