人生100年時代といわれる現代、健康寿命が延びる一方で、老後の住まいや暮らし方に対する意識も多様化しています。かつて「要介護になったら入る場所」と考えられがちだった老人ホームですが、近年、まだ自立した生活を送れる比較的若い高齢者層からの入居希望が増えているという実情も。本記事ではYさんの事例とともに、老人ホームの理想と現実について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
老人ホームなんて入らなきゃよかった…年金月20万円・77歳父「GWに遊びに行くね」と宣言した娘夫婦はハワイ旅行、ぼっちで過ごす大型連休に涙腺崩壊【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

突然のケガで生活がやや不自由に

そんな単調な生活を10年以上続けていた77歳のとき、Yさんは自宅の階段で転倒してしまいました。強い痛みでうずくまり一時間ほど動けませんでした。特に左肩を強く打ち、病院に行きましたが、しばらくは左腕が不自由な状態に。歯磨きのコップを持ちあげられなくなり、入浴も極めて不便な状態です。

 

ケガの症状は次第に収まってきたものの、ときどき強い痛みを感じ、以前のように左腕が自由に動くというほどには戻りませんでした。それを知った娘のKさんが、Yさんに「私がマンションを売却して、ここに家族全員で引っ越してくるのはどうかな?」と提案してきました。つまり、娘と孫二人、娘の夫がYさんの自宅で同居するのはどうだろうというのです。

 

「お父さんは介護が必要というほどではないものの、困ったときは助けられるよ」と娘のKさん。

 

ありがたい申し出だとYさんは思いましたが、二つ返事というわけにはいきませんでした。もう20年近くも1人暮らしを続けてきて、寂しいなりにこの生活に慣れています。もともと、妻と娘の3人で生活していた戸建ての住宅に、5人で生活しはじめると窮屈さもあるでしょう。上の孫は大学に入る年です。Yさんも含めて、プライバシーが守られない生活をすると、関係性もぎくしゃくするかもしれません。娘や孫たちとの同居は嬉しいものの、ここはやめておいた方がいいとYさんは判断しました。

 

しかし、また転倒して負傷、あるいは妻のように脳卒中などを発症したら、孤独死をする可能性があります。そうなるとこの自宅の処分も含めて娘に大きな迷惑がかかってしまうでしょう。そこでYさんが考えたのは、有料老人ホームへの入居です。

 

現在の自宅は築50年と古いものの、立地がよく、それなりの値段で売れるはずです。不動産を除いて、Yさん自身の退職金と妻Rさんの死亡退職金、現役時代に二人で貯えたお金を合わせると総額9,000万円を超えます。

 

これだけあれば老人ホームの入居一時金と毎月の費用には事欠かないでしょう。とりあえず娘には自宅を残すことにし、手持ちの現預金9,000万円を使って有料老人ホームに入居することに決めました。