人生100年時代といわれる現代、健康寿命が延びる一方で、老後の住まいや暮らし方に対する意識も多様化しています。かつて「要介護になったら入る場所」と考えられがちだった老人ホームですが、近年、まだ自立した生活を送れる比較的若い高齢者層からの入居希望が増えているという実情も。本記事ではYさんの事例とともに、老人ホームの理想と現実について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
老人ホームなんて入らなきゃよかった…年金月20万円・77歳父「GWに遊びに行くね」と宣言した娘夫婦はハワイ旅行、ぼっちで過ごす大型連休に涙腺崩壊【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

高級老人ホームで目撃…高齢者たちの多種多様なマウント合戦

娘のKさんはとても残念がっていましたが、自宅から電車で30分ほどにある有料老人ホームに入居したのは、冬が迫る11月のこと。寒い自宅で過ごすのは体に堪えるからと、寒くなる前の時期にしたのです。

 

入居したのは比較的高額な費用がかかる有料老人ホームでした。入居一時金は3,000万円、毎月の費用は35万円かかります。そこに入居しているのは、現役時代は大手企業の役員や元開業医など、ステータスが高いといわれている人が目立ちました。

 

Yさんは次第にそこでの人間模様が息苦しく思えるようになりました。原因は、娘や孫たちが使う言葉でいうところの「マウントのし合い」です。Yさんはマウントにいくつか種類があると発見しました。

 

目立つのは「経歴マウント」。元医師や大学教授、大企業の経営者など、かつての肩書きを引き合いに出し、「どちらにお勤めだったの?」とさりげなく探りを入れてくるのです。Yさんが公立学校の教員だったというと、あからさまに無関心になった人もいました。

 

また、財力を誇示する「金銭的マウント」も特徴的で、「うちは一時金が1億円だった」「年金だけで月50万円入ってくる」といった発言も聞こえてきて、品が無いなと思うこともしばしば。

 

「住居マウント」では、スイートルームに住んでいることや、都心にもう一軒マンションを所有していることを誇る場面も見られます。「最近マンションが値上がりして相続税対策に困っている」などと、訊いてもいないことを延々と語る男性も。

 

さらに「家族のステータスのマウント」では、子供や孫の学歴や職業をひけらかし、「うちの息子は大手企業勤務で海外赴任中」「孫が医者なのよ」といった話を何度もしてくる人もいます。

 

「趣味・人脈マウント」では、クラシック音楽の演奏歴や社交的な趣味を強調し、「私はバイオリン歴40年」「毎週、銀座でお茶会なの」「有名な芸能人が毎年自宅に挨拶に来る」など、生活の格調の高さをアピールする傾向がみられます。

 

Yさんが公立高校の教員をしていて、演劇部の指導に精を出していたことなど誰も興味も持ちません。若いころにこんな世界を知っていたら、演劇の脚本が一本書けたかもしれないと思うと、つい一人で笑ってしまいます。