人生100年時代といわれる現代、健康寿命が延びる一方で、老後の住まいや暮らし方に対する意識も多様化しています。かつて「要介護になったら入る場所」と考えられがちだった老人ホームですが、近年、まだ自立した生活を送れる比較的若い高齢者層からの入居希望が増えているという実情も。本記事ではYさんの事例とともに、老人ホームの理想と現実について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
老人ホームなんて入らなきゃよかった…年金月20万円・77歳父「GWに遊びに行くね」と宣言した娘夫婦はハワイ旅行、ぼっちで過ごす大型連休に涙腺崩壊【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

ストレスから娘に依存

この品の無さにYさんはげんなりすることが多く、居室に閉じこもる時間が増えました。娘のKさんは最初のうちは毎週のように訪問してくれましたが、次第に間隔が空くように。自宅で1人暮らしをしていたころは半年に一回しか娘と会いませんでしたが、最近は心待ちにし、娘に催促の電話をすることもしばしばです。

 

「お父さん、最近疲れているんじゃない?」と心配しはじめています。「ゴールデンウィークには家族全員で会いに行くからね! 待っていてね」と娘。

 

ゴールデンウィークにはみんなと会えるのかと楽しみにしていたYさんでしたが、ゴールデンウィーク直前になって娘から無情な電話が……。

 

「連休は家族でハワイに行くことになったの。子供の卒業祝いも兼ねてね。帰ってきたら会いに行くからね」

 

がっかりするYさん。ゴールデンウィークになると、テレビでは成田空港で旅行客の報道を見かけました。

 

「円安なのに旅行なんかしやがって……」とテレビに向かって一人で怒りつつ、ひどい孤独感に襲われてしまいました。冷静になると、最近娘に精神的な依存をしてしまい、迷惑をかけていたのだろうと気づきました。ずっと1人暮らしをしてきたのに、なぜこんなに心が窮屈になるのか。

 

「きっと、老人ホームに入ったのが間違いだったんだな……」そう思うと、悔しさと寂しさが襲ってきて涙が出てしまいました。結局Yさんは老人ホームを解約し、自宅に戻って一人暮らしをすることに決めました。入居一時金は清算されて一部戻ってきますが、全額ではありません。ずいぶんもったいないことをしたと思いましたが、人生勉強だと思うことにしました。

 

老人ホームに入れば家族に迷惑をかけない、健康で安全な生活が得られると思っていたYさんでしたが、実際にはその逆の事態になってしまったのです。必ずしも老人ホームでの暮らしが自分らしい生き方になるとは限りません。快適な高級老人ホームであっても、そこに入居できるほどの資産に恵まれているとしても、幸福とは限らないようです。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表