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収入に不安はない…「順調な老後生活」のはずが
60歳で定年を迎えた千葉浩二さん(仮名・62歳)は、大手メーカーで40年間勤め上げたサラリーマンでした。老後を見据えた貯蓄は2000万円を超え、定年時には退職金2800万円を手にしました。住宅ローンは完済し、さらに今後を見据えてバリアフリーのリフォームまで完了させてあります。2人の子どもは結婚し孫も誕生。幸せな老後しか想像できない……そんな状況でした。
「贅沢をしなければ無理に働く必要はない」そう考えて、定年を機に千葉は会社を辞めました。仕事自体は嫌いではなかったので、もしかするといつか働きに出るかもしれない。しかし、しばらくはゆっくりしたかった、というのが本音です。
退職後、しばらくは念願だった長期旅行に出かけ、趣味の読書にも時間を費やす毎日を過ごしていました。家計にも余裕があり、住宅ローンも完済済み。長年支え合ってきた妻と、たまに遊びに来る孫の存在が癒やしとなっていました。
しかし、時間が経つにつれ、以前のような張り合いが感じられなくなっていきます。毎朝同じ時間に出社し、部下に指示を出し、企画をまとめる――そのような生活から一転、誰からも求められない日々。家族のなかでも、自分の存在が浮いているように思えたといいます。
「何もしていないのに1日が終わる。誰の役にも立っていないと思うと、気分が沈んでいきました」
次第に千葉さんは、家族の訪問すら煩わしく感じるようになり、ついには激愛している5歳の孫が遊びに来ても「今日は疲れているから」と拒絶するようになりました。妻が「おかしい」と感じ始めたのはこの頃です。さらに「誰にも会いたくない。人から見られたくない」と一日中窓シャッターを開けようとしなかったことが決定的でした。
「主人は、朝日を浴びないと1日が始まった感じがしないと、起きたら真っ先に窓シャッターを開けるような人でしたから」