高齢者の老後資金に影を落とす「親から子への仕送り」。子どもが成人しても自立せず、親が支援を続ける家庭はごく一部にとどまるものの、長期化することで親の生活を深刻に圧迫するケースも少なくありません。背景には、就職氷河期に直面した子世代の不安定な雇用や、親の側の情による判断の先送りがあります。
愚かでした…〈年金月20万円〉78歳の元地方公務員の父が、働かない50歳息子に30年続ける「仕送り月10万円」に後悔する日々 (※写真はイメージです/PIXTA)

「仕送り月10万円」が老後生活を圧迫

「息子は今もひとり暮らし。電気代や家賃の滞納がないよう、仕送りを続けるしかありません」

 

しかし、年金の半分が仕送りで消える生活が、余裕のあるものであるはずがありません。食費や光熱費を切り詰め、趣味らしいこともできず、たまの通院にも費用をためらうような日々です。

 

「80も近くなり体力も落ちてきましたし、本当はもう少し楽に暮らしたい。でも、息子の生活が成り立たなくなると思うと、なかなか手を引く決断ができないんです」

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、「子に仕送りをしている」世帯の割合は、世帯主が40代世帯で4.9%、50代世帯でピークに達し7.8%、平均額は9.1万円。60代世帯では2.9%で平均10.1万円、70代世帯では1.6%で平均8.3万円です。

 

高齢の親が子に仕送りをしている昭さんのようなケースは、あくまでも「かなりの少数派」。だからこそ、周囲に話せず、孤立しやすいのでしょう。いい大人である子どもに対して「仕送りを送ってあげないといけない」という考えに固執し、世間からズレていることを指摘してくれる人もいない——だからこそ、こじらせてしまったのかもしれません。

自立の芽を摘んだのは、自分かもしれない

「大学を卒業した時点で仕送りを打ち切っていれば、状況は違っていたかもしれない」

 

今さらながら、岩崎さんは振り返ります。最初はほんの一時的な支援のつもりが、いつしか「本人に働く意欲を持たせない環境」を作ってしまった。そうした思いが、今となっては拭えないといいます。

 

「親として、情が勝ってしまった部分はあります。かわいそうだと思って援助を続けてしまった。でも、それが彼の人生を台無しにしてしまったかもしれない」

 

年齢を重ねた直樹さんが、今から安定した職を得るのは容易ではありません。体力的にも、社会的にも、再スタートを切るには厳しい現実があります。支援をやめる勇気も、続ける覚悟も、もう限界に近い。それでも「親としての責任」という言葉が昭さんを縛り付けているのです。

 

就職氷河期に傷ついた世代を支え続ける親の存在。そして、親の年金に依存し続ける子の姿——誰にも話せない「親子共依存」のリアル。ひとりで背負い込んできた積み重ねが、老後の安心を確実に蝕んでいきます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』