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なぜ「共働きだった妻」の遺族年金は少ないのか? 制度に潜む逆転現象
遺族年金制度には、意外な落とし穴があります。厚生年金に加入していた夫が亡くなった場合、原則として「遺族厚生年金」が支給されます。しかし、次のようなケースでは受給額が大きく減る、あるいは支給が一部停止されることがあります。
夫の厚生年金加入期間が短く、報酬額も高くなかった場合 → もともとの年金額が少なければ、当然ながら遺族年金も低額になります。
遺族である妻自身が厚生年金の加入者である → 遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の「併給調整」が行われ、老齢厚生年金は全額支給される一方、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。
久美子さんの場合、自身の老齢厚生年金は月9.2万円ほど。それに対し、遺族厚生年金は9.7万円。つまり、受け取れる遺族年金は月5,000円ということになります。
この事実にただ驚愕するしかなかった久美子さん。結婚して以来専業主婦で趣味に時間を費やしていた友人が月10万円の遺族年金を受け取っているのに対し、65歳まで働いた自分は月5,000円――「真面目に働いてきたのにバカみたい」。思わず、悠々自適な生活を送る彼女のことを恨めしく思ってしまうのも無理はありません。
このように「自分の年金があるからこそ、夫の年金が減る」という、共働き世帯には少々納得しがたい仕組みが制度上存在しているのです。専業主婦の妻が満額の遺族年金を受け取れる一方、働いてきた妻は調整により受給額が減るという構図は、老後の備えに制度への理解が必要な理由のひとつです。
久美子さんは、「夫の年金をあてにするのではなく、自分の年金分も働いて確保してきた」という自負を持っていました。共働き世帯として二人三脚で家計を支え、子どもたちを育て上げ、住宅ローンも完済。生活スタイルは決して贅沢ではありませんでしたが、「夫婦それぞれの年金で自立した老後を送る」という意識が強かったといいます。
それだけに、夫を失ったあとの金銭的な支えが想像以上に薄くなってしまった事実に、少なからずショックを受けました。「夫の年金がそのまま私の支えになると思っていたけれど、現実は違った。専業主婦の友人が豊かに暮らす姿を見て、つい比べてしまう」と久美子さんは話します。
高齢女性の一人暮らし世帯は年々増加しており、一方で女性の高齢単身世帯の貧困率は約5人に1人といわれています。老後を「夫婦」で設計してきた人にとって、「配偶者の死後の収入見通し」を見誤ることは、想像以上に大きな影響を及ぼしかねないのです。
[参考資料]
日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』