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年金暮らしの父にのしかかる「支え続けてきたことへの責任」
このような状況は、決して特殊なものではありません。内閣府『2022年度 こども・若者の意識と生活に関する調査』によると、引きこもり状態にある40~64歳は2.02%。これを数にすると、全国で約146万人いると推計されます。ここでいう広義のひきこもりとは、趣味の用事のときなどに外出したり、近所のコンビニなどに立ち寄ったりするなど、一定期間以上ひきこもっている人を指します。
「普段は家にいるが近所のコンビニなどには出かける」、「自室から出るが家からは出ない」、「自室からほとんど出ない」と、いわゆる引きこもりと聞いてイメージするような人を合わせると、広義の引きこもり状態にある中高年の6.6%、つまり10万人弱になります。また、大輔さんのように引きこもり状態になって20年以上になる人も全体の6.6%、つまり10万人弱にのぼります。
茂さんの心に重くのしかかっているのは、自分の死後に息子がひとりで生きていけるかということです。大輔さんに残してあげられるのは、今住んでいる自宅くらいではありますが、その家も築50年を超え、住み続けるとなると建て替えは必須です。茂さんが亡くなったあとに売却して生活費に充てるとしても、大した金額にならないことは目に見えています。
「せめて、あと何年かは元気でいたい。そしてその間に、何か手を打たないと」。茂さんは静かに語ります。「息子よ、頼むから働いてくれないか」――心のなかで何度そう願ったかわかりません。しかし、心を壊してしまった息子には言えませんでした。ところが、息子を黙って支え続けてきたことのツケが、今になって取り返しのつかないことになろうとしていたのです。
「大輔、一緒に相談センターに行ってみないか」
引きこもり状態から抜け出すための第一歩として、茂さんから大輔さんへの誘い。大輔さんは静かに頷いたといいます。行政窓口や地域包括支援センター、精神保健福祉士など、社会にはさまざまな相談機関が存在します。本人が外に出られなくても、家族が情報を得ることで新たな道が開けることもあるでしょう。引きこもりの問題は、当事者だけでなく、その家族、そして社会全体で取り組むべき課題です。今、目の前の生活を支える親世代の声に、私たちはどう応えるべきか。問われているのは、支える側だけではありません。
[参考資料]
内閣府『2022年度 こども・若者の意識と生活に関する調査』