
「ねんきん定期便」で見ていた金額と、振込額の差
佐藤昭さん(仮名・65歳)は、地方自治体に35年間勤務した元公務員です。長年まじめに勤め上げ、定年退職を迎えた今、「年金は月20万円くらいはもらえるだろう」と、ある程度の安心感を持って老後を迎えました。 それは、これまで毎年受け取ってきた「ねんきん定期便」の試算額から、確信していたことでもあります。
「少しは余裕をもって暮らせるだろう」。そう思っていた佐藤さんは、年金初回振込日の明細を見て、愕然とします。「えっ、18万円……話が違うぞ!」。確かに記憶にある金額より、ずっと低いのです。「何かの間違いではないか」と思い、すぐに年金事務所に問い合わせることになりました。
佐藤さんが確認していたねんきん定期便には、年金見込額として「年額およそ240万円(月額約20万円)」と記載されていました。これは、50歳以降の定期便に記載される「60歳まで今と同じ条件で納めた場合の見込額」にあたります。ところが、実際に振り込まれた額は月18万円ほど。
「ねんきん定期便に記載されている金額は支給予定額であり、そこから税金や保険料などが差し引かれた後の“手取り額”ではありません。振込額とは違いますよ」と年金事務所の職員。
実際、年金からは「介護保険料」「所得税」「住民税」「国民健康保険料」が天引きされます。
「まさか、年金からあんなに引かれるなんて……なぜねんきん定期便に、『これは額面です。手取り額ではありませんよ』と強調しないんだろう。私みたいに勘違いしている人は多いと思うんですよね」と佐藤さんは肩を落とします。
なお、住民税や国民健康保険料は、年金支給開始当初は自分で納める「普通徴収」となるのが一般的で、年金から天引きされる「特別徴収」は翌年度から適用されるケースがほとんどです。つまり、初回の年金振込では「介護保険料」と「所得税(該当者のみ)」の天引きが中心となるものの、それでも手取り額が想定より大きく下がる場合があるのです。
「確かに税金や社会保険料を払うのは、当たり前といえば当たり前かもしれませんが、年金からこんなに引かれるとは思ってもみませんでした」と佐藤さんは苦笑いを浮かべます。