高齢の親の年金に依存し、働かずに実家で暮らし続ける中高年の子ども。こうした家庭が今、全国に増えつつあります。背景には、就職氷河期、メンタル不調、社会との断絶など、複雑な事情が絡み合っています。親が元気なうちは何とかなるかもしれませんが、自身の老いと向き合うなかで、親たちは次第に深刻な不安を抱え始めています。
息子よ、頼むから働いてくれないか…〈年金月18万円・78歳の父〉、20年間働かない実家暮らしの〈50歳ひとり息子〉に最後の懇願 (※写真はイメージです/PIXTA)

「正社員なだけマシ」と頑張ったが…心が壊れた息子

3年前に妻に先立たれてから、50歳になるひとり息子・大輔さん(仮名)と二人暮らしだという藤本茂さん(仮名・78歳)。茂さんは長年、公務員として勤め上げ、現在の収入は年金月18万円のみ。家計は、ほぼ茂さんの年金だけに頼っています。

 

大輔さんは大学卒業後、希望する業界・職種での就職は叶わず、「正社員なだけマシ」と割り切って働き始めました。いわゆる就職氷河期世代です。大学を卒業しても就職できず、フリーターとして社会に出る人、就職浪人する人、あえて大学院に進学する人などが多かった時代でした。そのようななか、正社員(しかも大企業)として就職できた大輔さんの社会人としてのスタートは、順風満帆だったといえるでしょう。

 

しかし、大輔さんは職場環境や業務内容に強いストレスを感じていたといいます。30代に入って間もなく、メンタルヘルスの不調から退職。その後は定職に就くことができず、外出も少なくなっていきました。

 

「最初は、しばらく休めば元気になると思っていました。でも、いつの間にか10年、20年と時間が経ってしまったんです」。茂さんはそう話します。病気が原因の退職だったため、強く言い出せずにいた――その遠慮が年月を重ねるごとに、状況の固定化を招いてしまったともいえるでしょう。

 

今では、日々の買い物や家事の多くも茂さんが担っています。大輔さんが自室から出てくるのは、食事のときか、たまにテレビを見るくらい。外出は近くのコンビニに行く程度だといいます。就労はもちろん、福祉窓口など外部との接点も一切ありません。

 

「このまま私が先に死んでしまったら、息子はどうなるのか」。茂さんの口から出るのは、怒りや嘆きではなく、深い不安と後悔です。