(写真はイメージです/PIXTA)
「わかっていても動けない」所有者の葛藤
(1)所有者が具体的な活用方法が不明確なケース(イメージできない)。
空き家をどのように活用すれば良いか分からないため、所有者が行動を起こせない状況にある。
(2)所有者が需要(利用ニーズ)に対する理解が出来ていないケース。
自身が保有する空き家が、他の人にとっては自身の想定を超えた利用価値があり、これを使いたいと思う人がいることを想像できないため、市場に出す動機が薄い。
(3)所有者が「思い入れ」があるため手放したくないケース。
空き家には所有者の「思い入れ」があり、そのため利用者が誰でも良いというわけにはならず、提供(譲渡・貸与)しても良いと思う適切な人を探すことを優先する結果、物件の活用を躊躇し、流通が停滞する。
本稿では、空き家の所有者が物語を語ることによって、所有者自らの意識変化を起こすことを目的としている。ストーリーテリングの研究では、語り手への影響について分析をしている。
一方、回想法は高齢期において、個人が自身の人生の意味や価値を再認識し、より充実した老後を送ることを目的とする手法である。この点に着目すると、回想法を活用することで、空き家の所有者が自身の住まいに対する思いを整理し、過去の記憶を肯定的に捉え直す契機となり得る。
結果として、空き家の新たな活用方法を見出し、適切な形で社会に還元する意識の醸成につながると考えられる。したがって、空き家の活用促進において、回想法は有効なアプローチの一つとなり得る。
そこで、ストーリーテリングや回想法の効果について、既往論文から上げることによって、先述の所有者の意識における課題を解消することを述べる。
ストーリーテリングの効果
1|ストーリーテリングについて
ストーリーテリングとは、物語を用いて情報や価値観を共有するコミュニケーション手法である※1,2。その起源は古代にさかのぼり、人々は文化や歴史を伝えるために物語を活用してきた※3。現代においては、教育や医療、エンターテインメント、マーケティングなど多岐にわたる分野で利用されている。この手法は、単なる情報の伝達ではなく、感情的なつながりや記憶の定着を促進する点で特に効果的である※4。
2|ストーリーテリングによる語り手への効果
ストーリーテリングが空き家所有者の意識の変化にどのような効果があるかを示すために、ストーリーテリングの具体的な効果についてまとめる。
(1)感情的成長
語り手が聞き手との感情的なつながりを構築する中で、共感能力が高まることが示されている※6,5。ストーリーテリングは、語り手にとって他者の視点に立つ経験を与え、感情的理解を深める手段となる。また、ストーリーテリングを通じて語り手自身が自らの想いを言語化し、心理的な満足感を得ることで、自己肯定感や心理的安定が促進される効果がある※1,4。
(2)教育者としての発展
ストーリーテリングは教育の場でも活用される。形式として、教師が語り手として生徒に伝えるもの、生徒が語り手となることで学習効果の向上を起こすものなど様々である。語り手が語彙力や話し方のスキルを向上させることができる5。このプロセスは、物語を通じて教育内容を効果的に伝える方法を習得する機会を提供する。また、生徒の反応を観察することで、語り手としての自己効力感が高まる。特にストーリーテリングが成功した場合、教育者としての自信が大きく向上することが明らかになっている※3,4。
(3)新たなスキルの習得
ストーリーテリングを行うプロセスで語り手は即興的に対応する能力を磨くことができる※2,5。このプロセスは、物語の構成やキャラクターの設定を通じて語り手の創造性を刺激する。
(4)自己効力感と満足感の向上
聞き手からの肯定的な反応が語り手の満足感をさらに増幅させると同時に、教室内での連帯感や生徒との関係性の向上が重要な役割を果たす※1,3。