
本レポートのポイント
・「ひとり」は属性から概念へ
・コロナ禍をきっかけに「おひとりさま」で行動ができるようになったことが「ある」人は21.2%
・「おひとりさま」消費という言葉を使う事への疑問
・「ひとり」行動を阻む「資源」「環境」「自意識」「対応力」の4つのハードルがある
「#ぼっち参戦」「#ひとり参戦」の登場
先日、昔読んだ日経新聞のある記事を思い出した。1998年8月1日の「海外旅行、減少の本当の理由――若者が目的失う、「ミエ需要」も一巡」という記事だ。25年以上前の記事で「若者の旅行離れ」が問題視されていたわけだが、筆者が思い出したのは、当時の二十代の若者の旅行が好奇心の赴くままに旅行はせず、明確な動機を持った「ピンポイント旅行」のフェーズに移行しているという点だ。
同記事によるとJTBはその春、ミラノ、フィレンツェのアウトレット店巡りツアーに3ヵ月で800人もの若い女性を集めたという。参加者の狙いはグッチのアウトレット。JTBは、半日観光や美術鑑賞をコースに組み込まず、買い物に絞ったことがヒットの要因だったと分析している。当時、このピンポイント旅行者は継続的な旅行経験に繋がらないという理由から若者の海外旅行離れの要因の一つとして指摘されていた。
しかし、それから20年、2019年にJTB総合研究所からリリースされた調査研究によれば、旅行は「目的」から趣味や自己実現の「手段」になり多様化していることが示唆されている。個人の価値観やライフスタイルの多様化とともに旅行スタイルも変化しており、中でも、その場所でしか消費できないコトがあるからその場所に行く、という目的を達成するケースが増えている。
典型的な例がスポーツ観戦やコンサートへの参加だ。自身の生活圏で観戦できることに越したことはないが、往々にしてイベントが開催される各地の会場に自らが出向かなくてはならない。特にいわゆる推し活と呼ばれるような熱心に自身の「好き」と向き合う層にとっては、推しに会う事ができる「現場(コンサートやイベントの事)」が何よりのモチベーションになっており、足繁く通うし、彼らの中には一人でそのようなイベントに参加するものも少なくない。
博報堂生活総合研究所が行った「ひとり意識・行動調査」では1993年と2023年の消費者の「ひとりで行くことが多い場所・どちらかといえば1人で行きたい場所」を比較調査しているが、“コンサート”は「1人で行くことが多い」が11.5%(93年:5.7%)で5.8ポイント、「どちらかといえばひとりで行きたい」が13.6%(93年:8.4%)で5.2ポイント、それぞれ増加している。
現実社会において自分の価値観や趣味を理解したり、同じような熱量で消費している人を探すことは極めて困難なため、一人でイベントに参加したり、現地で同じ界隈(特定の趣味や関心、行動パターンを共有する人々のグループ)の中で仲間を見つける方が楽である。そのため、他に一人で参加している仲間を見つける、もしくは自分を見つけてもらうために、SNSで「#ぼっち参戦」「#ひとり参戦」などのハッシュタグを用いて繋がろうとする※1。
※1 一人でも消費できてしまうという自己肯定感の表れとしてポジティブなブランディングとして使用されていることもある。1人で参加することをむしろステータスして肯定する言葉として使用しており、そのようなイベントに行ってみたいけど一緒に誰かが行ってくれないと心細いという層(身体的に困難、年齢的に難しいなどの理由を除く)に対して、本当に好きなら1人でも行くことはできる、という意思の表れにも繋がる。