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ストーリーが所有者にもたらす4つの変化
ストーリーテリングは単なる情報の伝達手段ではなく、語り手自身の成長や満足感を促すとともに、ストーリーテリングを活用することにより、所有者の空き家に対する意識を変化させる重要な要素となる。そこで、感情的成長、教育者としての発展、新たなスキルの習得、自己効力感と満足感の向上という4つの側面から、所有者の空き家に対する見方や関わり方がどのように変わるのかを考察する。
まず、感情的成長の視点では、語り手である所有者が自身の記憶を語ることで、空き家が単なる「不要な建物」ではなく、「かつての生活の場」としての価値を持つことに気づく。この過程で、住まいとしての空き家に対する愛着が再確認され、単に手放すのではなく、何らかの形で活用したいという意識が生まれる可能性がある。
次に、教育者としての発展がもたらす影響として、空き家の歴史や家族の思い出が語り継がれることで、空き家が単なる不動産としての価値ではなく、文化的・社会的な側面から価値が見直される。これにより、「古いから壊す」のではなく、「歴史を継承しつつ活かす」という視点が生まれ、空き家の保存や利活用に対する関心が高まる。
また、新たなスキルの習得の面では、ストーリーテリングを通じて培われた表現力やコミュニケーション能力が、空き家活用の議論を深めるきっかけとなる。所有者がかつての住まいに関する自身の経験を語ることで、家族や地域住民との対話が生まれ、空き家に対する意識が個人的な問題から地域全体の課題へと広がっていく。これにより、空き家の問題が地域住民にとっても「自分事」として認識されるようになる。
最後に、自己効力感と満足感の向上が意識変化に与える影響は大きい。所有者自身の語りが周囲に影響を与え、共感を生むことで、「この空き家にはまだ活用の余地がある」「新しい役割を与えられるかもしれない」といった前向きな捉え方が生まれる。これにより、空き家を負担や問題として捉えるのではなく、新たな価値を見出す対象として捉え直す意識が醸成される。このように、ストーリーテリングは空き家に対する意識を「不要なもの」「管理が大変なもの」から、「価値を持つ資源」「再活用できる場」へと変化させる可能性を持つ。