空き家の活用を阻む要因には、立地や物件の条件といった外的なものに加え、所有者の内面や感情が深く関わっているケースも少なくありません。その“意識”に変化をもたらすには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。本稿ではニッセイ基礎研究所の島田壮一郎氏が、空き家を「語り継がれる場所」へと変えるための手がかりについて詳しく解説します。
空き家所有者が「売る・貸す」選択に踏み出すためには~空き家所有者の意識変容に向けた心理的アプローチの一考察~ (写真はイメージです/PIXTA)

回想がもたらす意識の変化

回想法は、心理的、社会的、認知的、自立支援、発達的な側面において多様な効果をもたらすが、これらの効果は空き家に対する意識の変化にもつながると考えられる。個人の経験や記憶を振り返ることで、空き家が単なる「不要な建物」ではなく、過去の暮らしや家族の歴史が息づく場として再認識される可能性がある。

 

まず、心理的効果の観点では、自己肯定感や幸福感の向上が所有者の空き家への意識に影響を及ぼす。回想を通じて自身の生き方や経験の価値を再認識することで、「この家には大切な思い出が詰まっている」「自分の人生の一部である」といった意識が芽生え、空き家を維持したり活用したりすることへの意欲が生まれる。次に、社会的効果として、孤立感の軽減やコミュニティ内での交流が促進されることで、空き家に関する意識が変化する。例えば、回想を通じて語られる家の歴史が周囲との共通の話題となり、地域の人々との関係が深まることで、「この空き家を地域の交流の場として活かせるのではないか」といった新たな視点が生まれる。空き家が「個人の所有物」から「地域の資源」へと捉え直される契機となる。

 

また、認知的効果の側面では、記憶機能の向上が所有者の空き家に対する意識変化をもたらす。過去の生活や家の記憶を思い出すことで、「この家にはどのような価値があるのか」「どのように活用できるのか」を考えるきっかけとなる。認知症の進行を抑制するという意味でも、空き家の整理や活用に関わること自体が認知機能の維持に寄与する可能性がある。

 

さらに、自立支援効果として、ADLの改善や生活の質の向上が所有者の空き家への意識変化につながる。回想を通じて自分の生活環境について考えることで、「この家をどのように活かせば、より快適に暮らせるか」といった実践的な意識が生まれ、自らの暮らしや住環境を主体的に見直すきっかけとなる。

 

最後に、発達的効果として、回想法が人生の意義を再評価する手段となることで、空き家にも新たな意味が与えられる。「この家をどう残すべきか」「どのように次世代へつなぐか」といった考えが生まれ、空き家を放置するのではなく、新たな役割を持たせる意識が所有者に芽生える。このように、回想法およびライフレビューは、空き家に対する意識を「管理が大変な負担」から「価値ある資源」へと変化させる可能性を持つ。

空き家所有者の態度変容の効果について

空き家所有者がストーリーテリングを通じて自身の記憶や思い出を語ることは、空き家に対する意識の変化を促し、活用に向けた行動を後押しする。所有者が語ることで、空き家の価値を再認識し、新たな活用方法を見出すことができる。また、その物語が他者に伝わることで、空き家の需要や適切な活用者とのマッチングが生まれ、結果として空き家の有効活用へとつながる。

 

(1所有者が具体的な活用方法が不明確なケース(イメージできない)。

→所有者が過去の記憶を語ることは、家の特徴や歴史的価値を整理し、活用の可能性を明確にする契機となる。かつて家族が集まった場であったこと、特定の用途に適した構造を持っていることなど、所有者が意識していなかった魅力が浮かび上がる。これにより、「この家にはこんな使い道があるかもしれない」という具体的なイメージが生まれ、行動を起こすきっかけとなる。

 

(2所有者が需要(利用ニーズ)に対する理解が出来ていないケース。

→物語を語ることで、所有者自身では気づいていなかった家の価値が他者によって認識されるという効果がある。所有者が「この家は使い道がない」と思っていたとしても、語られるストーリーの中に第三者が魅力を見出し、新たな利用ニーズが浮かび上がることがある。例えば、「昔ながらの土間が残っている」「地域の人々と交流があった家である」といった特徴が、文化活動の場や地域の集会所としての価値を持つ可能性を示唆する。これにより、所有者は「この家を必要とする人がいるかもしれない」と考えるようになり、市場に出す意欲が高まる。

 

(3所有者が「思い入れ」があるため手放したくないケース。

→所有者の「思い入れ」があるために手放すことに抵抗がある場合でも、物語を語ることが所有者の心理的負担を軽減する。所有者が自身の思いを語ることで、その意図に共感する活用者が見つかりやすくなり、「この人ならば家を任せられる」と感じることができるようになる。単に家を処分するのではなく、価値を継承するという視点が生まれることで、納得感を持って次の所有者へ託すことが可能となる。

 

このように、空き家所有者が物語を語ることは、空き家を「不要な負担」として捉えるのではなく、「新たな可能性を持つ資源」として再認識する契機となる。所有者自身が家の活用に向けた意識を高めるとともに、第三者とのつながりを生み、適切な活用へと結びつく。このプロセスを通じて、空き家問題の解決に向けた新たなアプローチを考えていく必要がある。