空き家の活用を阻む要因には、立地や物件の条件といった外的なものに加え、所有者の内面や感情が深く関わっているケースも少なくありません。その“意識”に変化をもたらすには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。本稿ではニッセイ基礎研究所の島田壮一郎氏が、空き家を「語り継がれる場所」へと変えるための手がかりについて詳しく解説します。
空き家所有者が「売る・貸す」選択に踏み出すためには~空き家所有者の意識変容に向けた心理的アプローチの一考察~ (写真はイメージです/PIXTA)

回想法の5つの主な効果

1|回想法とは

物語を語る手法の一つとして、回想法が挙げられる。回想法とは、対象者が過去の経験等を語ることによって、心理的および社会的な支援を提供するための手法として用いられる。

 

回想法の対象は、認知症高齢者や精神的な健康課題を持つ人々に限らず、一般の人々の自己理解や心理的適応の向上にも応用される。その効果は、心理的な安定や認知機能の向上だけでなく、社会的なつながりの再構築や自立支援にも寄与することが多くの研究で明らかにされている。

 

回想法には、自発的な記憶の想起を重視する「一般的回想法」と、時間軸に沿って過去を振り返り、自己統合を目指す「ライフレビュー」に分けて考えられることが多い。本稿ではこれらの効果に着目するものであり、方法論などには触れないため、まとめて「回想法」とする。

 

2|回想法の効果

回想法が空き家所有者の意識の変化にどのような効果があるかを示すために、回想法の具体的な効果についてまとめる。

 

回想法の効果について心理的効果・社会的効果・認知的効果・自立支援効果・発達的効果に分類することができる。

 

(1)心理的効果

回想法は抑うつ症状を抑え、心理的安定をもたらすことが明らかとなっている※7。また、自己肯定感や幸福感を高めることが分かっており※8、対象者が過去の経験を言語化し、自己の人生を振り返るプロセスは、心理的負担の軽減やポジティブな感情の喚起に寄与する※9

 

(2)社会的効果

回想法は、社会的つながりを強化するための重要な手段としても機能する。高齢者間のコミュニケーションを活性化し、孤立感を軽減する効果が確認されている※10。また、グループ形式での回想法は、参加者間の絆を深める要因となり、地域コミュニティにおける世代間交流を促進する効果があるとされる※11。これにより、地域社会全体のつながりが強化され、参加者が社会的価値を感じる機会が増えることが示される。

 

(3)認知的効果

回想法は、記憶力の維持および認知機能の向上に寄与することが報告されている※12。特に、認知症患者においては、回想法を通じて記憶の活性化が促進され、短期記憶および長期記憶の保持が改善する効果が示されている※13

 

感覚刺激を取り入れた回想法は、記憶の鮮明化を助けることで、対象者の認知的柔軟性や問題解決能力を向上させる結果をもたらすことが確認されている※14

 

(4)自立支援効果

回想法は、準寝たきり高齢者*1における日常生活動作(ADL)の向上に有効であることが示されている※15。また、過去の成功体験を振り返ることで、自己効力感や意欲が高まり、生活の質(QOL)が改善される効果が確認されている※16

 

さらに、自立支援プログラムの一環として回想法を導入することにより、対象者が自身の能力を再評価し、介護依存の軽減につながることが報告されている※17

 

(5)発達的効果

回想法は、対象者が人生の意味を再評価し、新たな価値観や希望を見いだす手段として機能する※18。また、青年期における回想法は、自己同一性(アイデンティティ)の確立や心理的発達を促進する効果があることが示されている※19。老年期においては、回想法が自己の役割や人生の意義を再確認する機会を提供し、心理的安定および自己統合*2を支援することが報告されている※20

 

*1 屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない状態のことを指す。

*2 自らの内面について意識し、自己を理解することをさす。