(※写真はイメージです/PIXTA)
家族との関係にも影を落とす「投資の失敗」
投資の損失は、家計だけでなく家庭環境にも影響を与えます。「定年前にこんなことになるなら、投資デビューなんて認めなければよかった」と妻から責められるようになり、家の空気もぎくしゃくしてきたと松井さんは語ります。
退職後は夫婦で旅行でも──と考えていた未来は遠のき、今は「老後をどうやって暮らすか」で頭がいっぱいだといいます。家族とのすれ違いに加えて、「自分の判断ミスで人生を壊してしまったのではないか」との自己嫌悪にさいなまれることもあるようです。新NISAという制度自体は、長期的な資産形成を後押しする仕組みですが、使い方を誤れば、制度の恩恵を受けるどころか、大きなリスクにさらされることもあります。
「もう人生、詰みましたよ」
金融広報中央委員会『令和5年家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』によると、「元本割れの経験がある」と回答したのは、50代が30.2%、60代が41.2%。また元本割れの受け止め方として、「リスクをよく理解していなかったので仕方がない」というのは50代で18.1%、60代で15.9%。一方で「相場の変動によって元本割れするリスクを金融機関が十分に説明しなかったから」は50代で4.5%、60代で4.8%でした。投資による損失の理由を自分ごととして捉えていない人は少なくないまでも、一定数います。
NISAなど制度そのものに問題があるわけではなく、自分の年齢や資産状況を無視した投資判断をしてしまうことが問題であるといえます。定年前の資産運用においては、「増やす」よりも「守る」ことに重きを置いた戦略が重要です。万一の下落時にも、生活費を確保できる現金を手元に置いておくこと。短期的な値動きに一喜一憂せず、冷静な判断を保つこと──それが何よりのリスク管理です。
制度の良し悪し以前に、今一度、自分のライフステージに適した資産運用を見直してみる必要があるかもしれません。
[参考資料]
金融広報中央委員会『令和5年家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]』