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老人ホームは「高すぎて」現実的ではなかった
父は元気なころから「迷惑はかけたくない。もし介護が必要になったら施設に入る」と話していました。しかし、実際に老人ホームの月額費用を調べてみると、15万~30万円が相場です。年金5万円では到底賄えません。比較的費用が安く済む「特別養護老人ホーム(特養)」は月10万円前後とされていますが、原則として「要介護3以上」の高齢者でなければ入所できません。また、認知症により日常生活に支障をきたす症状や行動が見られる場合は、入所が認められる場合もあります。
しかし、施設に頼ることは、勇さんの症状が進行することを望んでいるかのように感じられ、真由美さん自身、勇さんを施設に入所させることをためらうようになったといいます。
現在、真由美さんは訪問介護やデイサービスなど介護保険制度を利用しながら父の介護を続けています。週に数日はデイサービスを利用してもらい、その間に仕事や家事をこなすという生活サイクルを維持していますが、介護は常に綱渡りのような状態です。
介護保険によるサービスは自己負担1割で受けられるとはいえ、それ以外にも食費やおむつ代、通院の交通費、訪問診療の実費など、日々の支出は積み重なります。さらに物価高により、真由美さんの収入と勇さんの年金ではやりくりするのも大変です。
さらに、在宅ワークとはいえ、パソコンに向かって集中する時間が必要です。それでも、勇さんが突然家から出ていこうとしないか、常に注意しておく必要があります。「いつ何が起きるかわからないので、常に気を張っています」。身体だけでなく、精神的な負担も決して軽くないのが現実です。
真由美さんのような状況に直面したとき、行政の制度をうまく活用することが重要です。介護保険サービスはもちろん、収入や資産の状況によっては「高額介護サービス費制度」や「障害者控除対象者認定」など、費用負担の軽減につながる制度があります。まずは制度の情報を知ることが第一歩です。介護負担が重くなるにつれて、社会から孤立するケースは珍しくありません。利用できるはずの支援が届かず、最悪の結果を招くこともあります。そんな悲劇を生まないためにも、介護世帯を孤立化させない地域コミュニティの構築が課題です。
また、高田さんのように、親の年金額が少なく、子が働きながら介護を担う家庭は今後ますます増えていくと考えられます。2025年問題。昨今よく耳にするこの問題は、団塊の世代がすべて75歳以上となり、高齢化によるさまざまな問題が深刻化する――その序章となる年が2025年です。認知症や介護の問題はより身近なテーマとなります。
親の介護問題が現実になったとき、施設の費用や制度の仕組みの複雑さに直面し途方に暮れることもあるでしょう。そうならないためにも「親の年金はいくらか」「どれだけ貯金があるか」といった金銭面の実情を、事前に把握しておきたいものです。
[参考資料]
厚生労働省『どんなサービスがあるの? - 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)』
厚生労働省『サービスにかかる利用料』
国税庁『No.1185 市町村長等の障害者認定と介護保険法の要介護認定について』