なぜ、年金をもらっているのに働く必要があるのか――現代日本の高齢者が直面する厳しい現実を浮き彫りにした、幼い子どもからの質問。その回答には、年金だけでは生活が成り立たない、将来への不安がにじんでいました。
じぃじ、年金もらってるのに、なんでお仕事してるの?「年金月15万円」70歳男性、孫の無邪気な質問に絶句したワケ ※写真はイメージです/PIXTA

70歳男性、スーパーで週3日勤務の日々

「じぃじ、年金もらってるのに、なんでお仕事してるの?」

 

久しぶりに会った保育園に通う5歳の孫。新しく覚えた言葉を使いたがる年齢。最近、「年金」という言葉を覚えたのでしょうか、「年金=もらえるお金」ということは理解しているようです。無邪気に放たれた質問に、じぃじこと、工藤哲也さん(仮名・70歳)は言葉に詰まったといいます。年金を受け取っている70代の高齢者が、なぜ働いているのか。大人ならすぐに察する現実も、幼い子どもには不思議で仕方がなかったのでしょう。

 

現在、哲也さんは、週3日、近所のスーパーで品出しの仕事をしています。時給は1050円ほど。1日4~5時間の勤務で、月に6万~7万円程度の収入を得ています。

 

もともと地方自治体の関連団体に勤めており、60歳の定年後も5年ほどは再雇用で働き続けました。年金を受け取り始めたら仕事を辞めるつもりでしたが、引き続き働くことを決心。今の仕事を見つけて5年になります。

 

「仕事を辞めたら、夫婦でのんびりと暮らそうと話していたんですよ。でも人生は、思っている通りには進みません」

 

さかのぼること5年前。妻・洋子さん(仮名・68歳)が体調を崩し、入院を伴う治療をスタートさせました。哲也さんは仕事と看病の両立を迫られましたが、それ以上に毎月の医療費が少しずつ、貯蓄を削っていきます。

 

哲也さんの年金は月15万円ほど。洋子さんの年金と合わせると月23万円前後になります。住宅ローンはすでに完済しており、いわゆる「持ち家暮らし」ではありますが、それだけで安心とはいえないのが現実です。

 

「退職金は、住宅ローンの返済と子どもたちの大学進学で使いました。今ある預貯金もどんどん減っていきます」

 

現在、預貯金は1000万円近くあります。しかし洋子さんの治療がいつまで続くのか、まったく不透明。いつか底をついてしまう……そんな恐怖と対峙していくには、少しでも働き、収入を得るほか方法はないのです。