持ち家の検討を本格的に始めるのは、30代から40代にかけての世代に多い傾向があります。なかでも、結婚して間もなく、子育てが始まったばかりという家庭が目立ちます。そうしたライフステージでは、家族の願いをふんだんに詰め込んだ理想の住まいを思い描くものです。日当たりのよい広々としたリビング、調理が快適にできるキッチン、家族それぞれの個室──そんな住空間に心を弾ませる人も多いでしょう。しかしながら、その家に高齢となった自分たちが暮らしている姿を、明確にイメージできている人はどれほどいるでしょうか?
世帯年収1,200万円の30代共働き夫婦、東京で予算内にマイホームを…「19坪・狭小住宅購入」決断の末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

東京で家を買うには…

東京在住、2歳の子どもがいる30代の八木さん夫妻(仮名)。世帯収入こそ1,200万円ですが、実際の貯蓄額はほぼゼロという状態。家計管理は後回しで、ネットショッピングに頼る習慣もあり、住宅購入まではお互いの収入すら詳しく把握していませんでした。

 

住宅ローンの審査上は8,000万円ほどの借入が可能と見込まれましたが、もう1人子どもが欲しいと考えており、現実的な上限と考えたのは土地込みで5,000万円。ところが希望するエリアでは、その予算内での購入は難しいようでした。

 

エリアをずらし、次の候補に上がったのは狭小の建売住宅。延べ床面積19坪、3階建てで、玄関の目の前には階段があり、主な生活スペースは2・3階。建物の価格は、地価や外構の工事費などを考慮し、1,900万円台と見積もることができます。周囲には細い坂道と密集した住宅が広がり、生活面ではやや難があります。

 

八木さんにとっては、土地込み5,000万円の価格設定は魅力的に映ったのかもしれません。しかし、その家が「老後の暮らし」にどう影響するかを考えたとき、いくつもの懸念が浮かんできました。

日本の住宅の寿命が短すぎるワケ

国土交通省の「滅失住宅の国際比較」によれば、日本で取り壊された住宅の築年数は平均で32.1年とされています。つまり、日本では築後わずか30年あまりで家屋が解体されているケースが多いということです。一方、イギリスでは住宅の寿命が80年を超えており、日本の約2.5倍にのぼります。では、なぜ日本の住宅はこれほど早く寿命を迎えてしまうのでしょうか。考えられる主な理由は、大きく3つあります。

 

理由1:建物のクオリティにばらつきがある

住宅そのものの品質です。日本では高度経済成長期に住宅不足を解消するため大量供給が急がれました。その結果、「質より量」が優先された時期があり、建材や工法の耐久性に不安の残る住宅も少なくありません。いまもなお、築年数が浅くても劣化が進んでいるケースもみられます。

 

理由2:中古住宅市場の未成熟

日本は中古物件の流通が活発ではありません。欧米では、古い家をリフォームして住み続けたり、資産価値を高めて売却したりする文化が根付いています。一方日本では、「中古=価値が下がるもの」という考えが根強く、古い住宅は売るより建て替えるという発想が主流。もちろん、「古民家再生」などのブームは一部でありますが、それはもともと豪華な伝統建築などが対象です。築数10年を経て劣化した一般的な住宅を再生するよりも、解体して新築したほうが合理的と考えられるのが現状となっています。

 

理由3:加齢に伴う“住みにくさ”が表面化する

「間取りが高齢期の生活に対応できていないこと」は最も大きな課題でしょう。若いころは問題なく暮らせていた家でも、歳を重ねて足腰が弱ってくると、階段の昇り降りや、狭い浴室・トイレなどが負担になってきます。そのままでは高齢期の自宅生活が難しくなるため、建て替えや転居を余儀なくされることも。しかし、建て替えには当然多額の費用がかかります。高齢になってから再び住宅ローンを組むことは現実的とはいえず、一生に一度の買い物であるはずの住宅が想定よりも早く限界を迎えてしまうケースが少なくありません。