
定年後に直面する「大幅に給与減」の現実
2年前に60歳を迎え、定年を迎えた今井聡さん(仮名・62歳)は、キャリアの終焉を感じました。サラリーマンとして順調に昇進し、名の知れた大企業で部長にまで昇進。年収は1,500万円を誇っていましたが、定年後に迎えた現実は厳しく、年収は一気に500万円以下に減額となりました。これまでの高収入に慣れていた今井さんにとって、このギャップは大きな衝撃だったといいます。
定年を迎える4ヵ月前、人事部との定年後の働き方についての面談が行われました。「今井さんが希望すれば再雇用により引き続き会社で働くことができる」「雇用形態は契約社員となり、規約により給与は決められる」「現行とは別部署の配属となり、正社員のサポート役となる」ことなどが説明されました。
ここで、大企業における定年年齢の現状を見てみましょう。
【大企業における定年年齢】
60歳…74.3%
61~64歳…3.0%
65歳…23.1%
66~69歳…1.1%
70歳以上…3.1%
出所:厚生労働省『令和6年 高年齢者雇用状況等報告」』 ※数値は定年制のある企業の回答より
多くの企業で60歳が定年と定められていることが分かります。今井さんも、この一般的な定年制度のもと、「再雇用」という新たなステージを前に、年収や仕事の内容に大きな変化が訪れることになったのです。
今井さんは、再雇用契約を結ぶことになりました。正直、イメージできないこともあったといいます。そのひとつが給与です。役職手当がなくなり、また給与水準は正社員ではなく契約社員と同様となります。大卒で就職して以来、正社員がいることが当たり前であったし、30代後半で役職がついてからは、給与はぐんと増えました。それが20代の若手の頃と変わらない水準にまで減るとは……。定年後に振り込まれた給与は月30万円、手取りで23万円ほど。ここで初めて現実だと思い知ったといいます。
給与に加えて今井さんを悩ませたのは、「エリートとしての誇り」と「役不足感」でした。かつては会社の中枢で活躍し、さまざまな決定権を持っていた部長職から、再雇用後は雑務やサポート的な仕事に従事。同僚と会議を行うことも少なくなり、報告書を作成する業務や雑務が主な仕事です。この仕事の内容に対して、「俺には役不足だろ……」「なんでこんなこと、俺がしなければならないのか」などという思いを強く抱きました。
「惨め……そのとき感じた思いを表すなら、ぴったりな言葉です」と今井さんは振り返ります。