
老人ホームから深夜のSOS、駆けつけた娘が見た光景
「動けなくなっているのに、誰もいないの」
2025年3月下旬、深夜0時過ぎ、小林直美さん(仮名・54歳)のスマートフォンに一本の着信が入りました。発信者は、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)で暮らす母・和子さん(仮名・82歳)。「今すぐ助けに来て!」というSOSに直美さんは車を走らせ、およそ15分後にホームへ到着。施設に着くと、オートロックが解除されておらず、呼び鈴を鳴らしても応答がありませんでした。やむを得ず管理会社の緊急番号に連絡し、ようやく中へ。そこで彼女が見たのは床に倒れたまま動けなくなっている母の姿でした。驚くべきことに、その周囲には誰一人として職員の姿がなかったといいます。
施設内は照明が落ち、どこか無人の空間に迷い込んだような錯覚に陥るほどだったと、直美さんは振り返ります。
高齢化が進む日本において、親が老人ホームに入ることは、ごく一般的な選択肢となりました。しかし、「入れて安心」とは限らない現実もあるのです。
和子さんは数年前に軽い骨折を経験してから、直美さんが定期的に訪問し、日常生活を支えてきました。ただし、直美さん自身も仕事を抱えており、高齢の母のひとり暮らしには限界があると感じ、相談のうえサ高住に入居する決断をしました。
選んだのは月額13万円で入居できる施設。月15万円という年金月受取額から鑑みて、費用面では条件をクリア。食事と見守りサービス付き、職員の対応も丁寧かつきめ細やかで、内覧時にはふたりとも「これなら大丈夫」と感じたといいます。
ところが、入居から半年が過ぎた頃、施設内の様子が少しずつ変わっていきました。食事の提供が遅れる、清掃の頻度が減る、職員の顔ぶれが頻繁に変わる――やがて日常的な会話のなかで「人が足りない」という言葉を耳にするようになっていったといいます。して今回のような緊急事態が起こったとき、人手不足が命取りになりかねないことを、直美さんは痛感しました。
厚生労働省が公表した「介護人材需給推計(2023年)」によれば、2025年には全国で約32万人の介護職員が不足する見通しだといいます。特に、夜勤や宿直体制を取る職場は敬遠されがちで、サ高住などでは「夜間は職員1名体制」というケースも珍しくないとか。