
会社から契約終了を告げられ、貯金も底をつき…
誤算は続きます。体力には自信があった斉藤さんですが、年齢には勝てず、次第に仕事が辛くなってきました。持病の腰痛が悪化し、歩くたびに鈍痛が走ります。巡回にかかる時間は以前の2~3倍になり、警備室を離れる時間が長くなったため、利用者からのクレームも増えました。その結果、「契約を更新しない」と会社から告げられ、失業しました。
――他に仕事を探さないといけません。でも、体がこんな状態では何もできません
収入がなくなり、3万円の家賃も滞納し始めました。わずかな貯金も底をつき、絶体絶命の状況に陥った斉藤さんは、最悪の事態も考えるようになりました。
誰にも頼ることができませんでした。昔から一人で生きてきたんです。今さら、誰かに頼るなんて考えられませんでした
そんなとき、近所に住む若い夫婦が斉藤さんのことを心配し、役所に相談しました。夫婦はソーシャルワーカーとともに斉藤さんを訪ね、生活保護の申請を勧めました。
国なんて信用ならないといってきたし、生活保護なんて絶対に受けたくなかったんです
しかし、わらにもすがる思いで、斉藤さんは生活保護の申請を決意しました。それでも、役所へ向かう足取りは重かったのです。そんな不安と諦めを吹き飛ばしたのは、役所の窓口で担当者からかけられた言葉でした。
大変でしたね。頼ってくれてありがとうございます
斉藤さんの不信感を事前に聞いていたのでしょうか。その優しい言葉に、これまで誰にも頼れなかった孤独と、ようやく差し伸べられた救いの手に、思わず涙がこぼれました。
まさか、こんなことをいってもらえるなんて。これまで「国なんか信用できるか」といってきたのに
厚生労働省の『生活保護の被保護者調査』によると、2024年12月時点で生活保護を受けているのは200万7,364人(保護停止中を含む)です。保護率は1.62%になります。世帯数では164万3,111世帯で、高齢者世帯が90万2,810世帯と半数以上を占めています。昨今は物価高の影響もあり、高齢者の生活は厳しさを増し、生活保護受給者も増加傾向にあるといわれています。
生活保護は年金とは無関係の制度です。憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づき、生活に困窮した国民に対して最低限度の生活を保障します。斉藤さんのように年金保険料を納めていない人も対象です。資産や働く能力などを活用しても最低限度の生活を維持できない場合に、生活保護を受給できます。
一般的には、まず福祉事務所に相談し、申請書類を提出します。その後、調査や審査を経て、受給の可否が決定します。生活保護を受給すると、生活扶助、住宅扶助、医療扶助など、さまざまな扶助を受けることができ、受給開始後は担当のケースワーカーと相談しながら自立に向けた支援を受けることになります。
[参考資料]