子どもたちに「将来、なりたい職業は?」と聞くと、上位に入ってくる「教師」。実際に「子どものころからの夢を叶えた」という教師は多いようです。一方で、夢だった教師になったにも関わらず、後悔を口にする人も珍しくありません。
さすがに、どうでもよくなりました…〈月収42万円〉36歳の女性教師、昼休み明けの5時間目、教室の扉を開けて愕然。「もう無理!」と号泣したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

傷害事件発生!しかし校長のひと言に唖然

――子どもでもスマートフォンをもつのが当たり前になったあたりからでしょうか。より周囲からの目を気にしないといけなくなったと思います

 

「保護者に怒られるから」「教育委員会に睨まれるから」。会話のなかに、そんな枕詞がつくことが増えていきました。以前よりも教育現場に物申しやすくなったことで、教師は委縮していったといいます。

 

――もちろん、すべての学校というわけではないんです。問題ある子どもや保護者に対して「毅然とした態度でのぞみなさい」という校長先生がいれば、「なんとか丸く収めて」とか「保護者のいうことが絶対」などという校長先生もいます。私が教師を辞める直前の学校は後者でした

 

そんなときに、教師を辞めるきっかけとなる事件が起きました。当時、小学校4年生の担任。本来であれば3年生から担任も繰り上がりとなるのが通例ではありましたが、すでに問題ある児童が多く担任がリタイヤ。4年生から林さんが担任を務めることになりました。

 

授業中に私語をする子、立ち歩く子、林さんの指示を聞かない子……林さんが注意しても、反発したり、無視したりする児童もいました。生活指導に多くの時間を費やし、授業準備や教材研究に十分な時間を割けなくなっていったといいます。

 

――私、こんなことをするために教師になったのか

 

そう自問自答することが多くなり、精神的にも肉体的にも疲弊していったといいます。そしてある日の昼休み明け、5時間目の授業。気力を振り絞って教室の扉を開けたとき、衝撃的な光景が目に入ります。

 

一部の児童が暴れ、机は倒れ、教科書は散乱。教室のあちらこちらから奇声があがっていました。ここまでひどい状態は初めてで、一瞬たじろいだ林さん。それでも暴れている児童に駆け寄り注意します。そのとき、その児童が思いもしない行動に出ました。ガブリ。林さんの右腕にかみついたのです。その力は強く、思わず児童の頭を叩きそうになりましたが、「手を上げたら校長が……」「保護者が……」「教育委員会が……」そんなことが頭をよぎり、振り上げた手を下ろし、ひたすら口で注意を促します。

 

やっと噛むのをやめた児童。林さんの右腕からは血が……手当で保健室にいった林さん、心の中で、何かがプツンと音を立てて切れたような気がし、「うわあああああ、もう無理!」と、人目もはばからず号泣してしまったといいます。

 

場合によっては傷害事件と騒ぐことはできたでしょうか。しかし校長からは「コトを荒げないように」と、なぜか林さんが注意される始末。思わず唖然としたという林さん。教師を辞める決心をしたといいます。

 

――さすがに、どうでもよくなりました

 

文部科学省によると、小学校教員の1週間当たりの勤務時間は約60時間。中学校教員では約65時間。過労死ラインとされる月80時間以上の残業をしている教員も少なくありません。また精神疾患による休職者数は、年々増加傾向にあり、2023年度には、公立学校教職員の精神疾患による病気休職者数は7,119人で過去最高を記録。これは、10年前の約1.5倍にあたります。

 

このような実情が広がったことが、教員採用試験の競争率が減り続けていることの要因となっています。2023年度の公立小学校教員採用試験の競争率は全国平均で2.2倍。前年度の2.3倍を下回り、過去最低を更新しました。

 

現在林さんは、教師として培った指導力やコミュニケーション能力を活かし、企業の社員研修や人材育成プログラムの企画・実施に携わっています。

 

[参考資料]

北海道教育委員会『懲戒処分について』

文部科学省『令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』

文部科学省『令和6年度(令和5年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント』