内閣府「高齢者の健康に関する調査」によれば、高齢者が最期を迎えたい場所として「自宅」を挙げる割合は依然として約半数にのぼります。しかし、唯一のバス路線が廃止され、商店街がシャッター通りと化した過疎地でその願いを叶えるには、多大な代償が伴うもの。地方の過疎地域にある築古の自宅をリフォームしたマサカズさん(仮名)の事例から、親子間の実家の処遇に関するすれ違いをみていきましょう。
「親がなにを考えているかわからない…」唯一のバスは廃便・シャッター街にある〈実家〉を900万円で改装。子どもたちの反対を押し切り、75歳両親が選んだ“贅沢な孤立” (※写真はイメージです/PIXTA)

900万円を投じた「動かない」決断

マサカズさんの自宅がある街は、かつての活気を失い、商店街はシャッターが閉まったまま。昨年には、唯一の公共交通機関だった路線バスも廃止され、車がなければ食料品の買い出しすら困難な地域です。息子たちは「いまのうちに家を売って、駅前のマンションか、僕たちの家の近くに移り住んでほしい」と何度も説得を試みました。

 

しかし、夫婦が導き出した答えは、老朽化が進んだ家を900万円かけてフルリフォームすることでした。「資産価値なんてどうでもいい。私たちは、ここを『終の棲家』にしたいんだ」ケンジさんは、反対する息子たちを前に、そう言い放ちました。

 

マサカズさんはその声を押し切り、900万円をかけて自宅のフルリフォームを敢行。

 

断熱・気密改修: 400万円

バリアフリー化(段差解消・手すり): 200万円

外壁・屋根の補修: 200万円

水回りの刷新: 100万円

 

「まだ運転できる」引き際を巡る親子間の溝

息子たちの最大の懸念は、両親の「運転」です。買い物も病院も、日ごろの用事は車がなければなにも済ませられません。

 

息子たちはリフォームの相談と並行して、「そろそろ運転免許を返納したほうがいい。ここでなにかあれば取り返しがつかない」と訴えました。警察庁の統計でも、高齢運転者による事故の防止は大きな社会課題として報じられています。息子たちは「もう、親がなにを考えているかわからない」と辟易としています。

 

しかし、マサカズさんは頑として首を縦に振りません。「バスも来ないこの場所で、免許を返したらどうやって暮らしていくんだ。まだ目も耳もはっきりしているし、毎日同じ道を走っている。若い奴らのほうがよっぽど危ない運転をしているじゃないか」

 

マサカズさんにとって免許を手放すことは、この土地でリフォームまでして築き上げた「生活の継続」を自ら断つことを意味していました。