老後の生活資金となる定年退職金。「大切に貯金しておく」というのが定番でしたが、昨今は長寿化を背景に「少しでも増やそう!」と資産運用に回すケースも珍しくないといいます。しかし定年後に投資デビューという人のなかには、想定外の失敗で撃沈するケースも珍しくありません。
惨めです…〈年金月21万円・退職金2,700万円〉65歳で完全引退した元教頭の男性、悠々自適な毎日を送るはずが「わずか4ヵ月」で老後破産の危機 (※写真はイメージです/PIXTA)

元教員同士の集いで抱いた劣等感…どうにかしたいと考えて

5年間、再任用教員として教壇に立ち、65歳で教員生活を終えた岩崎さん。前述のように、やりきれない場面も多くありましたが、それでも充実した日々だったと振り返ります。

 

65歳になってから受け取り始めた年金は月21万円。周りの人と比べたら、ずいぶんともらっていることはわかっていました。退職金も2,700万円と、教頭を務めていたこともあり、他の教員と比べても多いことも知っています。40年以上、頑張ってきたのだから、これからは妻とともにゆっくりと過ごそう。そう思っていたといいます。しかし思い通りにはいきませんでした。

 

きっかけとなったのは、引退した教員たちの集い。岩崎さんも先輩に誘われて参加しましたが、そこでまた惨めな思いをしたといいます。参加していたのは元校長の肩書をもつ人ばかり。そのなかに、ポツンと元教頭がひとり……。「居心地は最悪だった」と岩崎さん。心のなかで「校長にならなかったのは自分の意志」とつぶやいてみても、「あの人、校長にはなれなかったんだよね」という陰口が思い出される……ここでようやく、劣等感を抱えていることを自覚したといいます。

 

――このまま、つまらない劣等感を抱えて生きていたくない

 

そして手を出したのが、なぜか「投資」。それまでコツコツと貯金をしてきた岩崎さん。投資とは無縁の生活を送ってきましたが、投資で大きく儲けることができたら、つまらない劣等感なんて吹き飛んでしまうだろう……と考えたといいます。

 

投資でもコツコツと。それであれば問題なかったでしょう。しかし投資の目的が「今に見ていろよ、見返してやる!」という、何ともいえない理由。嫌な予感しかしません。

 

岩崎さん、投資の知識はほぼゼロという状況のなか、勧められるがままに投資をしたのが「暗号資産」。しかも退職金のすべてを使ってしまうという極端ぶり。「とにかく早く儲けたいという一心だった」といいます。当然、うまくいくはずもなく、保有していた暗号資産はみるみるうちに値を下げ、4ヵ月ほどで半値以下に

 

――このままでは老後破産してしまう

 

そんな焦りから保有している暗号資産をすべて売却。すると今度は上昇基調に転じ、4ヵ月で元に戻るという皮肉。やはり知識ゼロで参入するものではなかったのかもしれません。

 

Q.資産運用している人に聞いた「投資した金融商品は?」

・NISA/iDeCo…60.2%

・株式投資…52.7%

・投資信託…41.5%

・外貨預金…22.5%

・暗号資産…19.0%

・コモディティ…10.3%

出所:ビットバンク株式会社『暗号資産投資実態・市場に関するアンケート調査』

 

――つまらない見栄で1,500万円近く損をしてしまった。妻にも愛想をつかされそう。自分がどれだけつまらない人間か思い知りました

 

生活費の見積りが甘かった、医療・介護費の増大、住宅ローン負担、熟年離婚……老後、思わぬ理由で大きく資産を減らしたり、最悪、破綻してしまったりする人たち。投資によって大損するケースも珍しくありません。さらに岩崎さんのように、知識もないにも関わらず、いきなり大金を投資にまわしてしまうことも。特に教員をはじめとした公務員に多いというので気を付けたいものです。

 

[参考資料]

文部科学省『学校教員統計調査  令和4年度(確定値)』

ビットバンク株式会社『暗号資産投資実態・市場に関するアンケート調査』