
「判断能力が低下した人」が相続人のなかにいる場合の遺産分割
剛さんは父親が亡くなったあと、葬儀の準備や実家の整理を行いながら、清さんの遺産の相続について進める必要がありました。相続税の手続きのために、同僚を通じて税理士Aさんを紹介してもらいました。税理士Aさんは剛さんから話を聞き、こう尋ねたそうです。
「お母さまは認知症ですか?」
剛さんの母親は、脳梗塞の後遺症のため麻痺があり、介護施設に入居することになりましたが、認知症と診断はされてはいませんでした。そこで剛さんは、「認知症ではありません」と答えました。そういうことなら、と遺産分割について税理士Aさんから提案された方法は以下のとおりです。
1.清さんの遺産の2分の1を母親が相続し、遺言書のとおりに陽子さん1,250万円、友美さん1,250万円、残りの遺産を剛さんが相続する。
2.1により、配偶者である母親の相続税の税額の軽減措置が適用され、相続税を軽減できる。
3.母親が亡くなったあと、剛さんが母親から遺産を相続することになり、清さんの遺言書のとおりに遺産分割が終了する。その際、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数3人)が適用されるので、相続税は発生しない。
この方法による相続税の計算は、次のようになります。
居住用の宅地等の課税価額の特例の適用により、相続税課税価格は8,000万です。
母親の相続税額:8,000万円×2分の1×20%-200万円=600万円→0円
陽子さん、友美さんそれぞれの相続税額:1,250万円×15%-50万円=137.5万円
剛さんの相続税額:残額となる1,500万円×15%-50万円=175万円
相続税の総額は、450万円です。遺産をどのようにわけるかきょうだい間で話し合い、最初から遺言書のとおりにわけると1,225万円だったことから、税理士Aさんが提案した方法にしようと決まったそうです。その際、剛さんは疑問を抱きます。
「お母さんは、認知症ではないけどいまは病院で寝たきりだ。僕が声をかけてもわからないみたいだった。そういう状態でも相続することはできるのかな?」