厚生労働省の人口動態統計(確定数)の概況によると、2023年に亡くなった人は157万5,936人と前年より6,886人増加。調査開始以来、最多となっています。親しい人とのお別れとともに、相続を経験したという人も多いのではないでしょうか。相続では、ちょっとした行き違いからトラブルに発展する可能性もあります。本記事では山口剛さん(仮名)の事例とともに、相続発生時のトラブルについて、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を変更しています。
年収1,000万円の転勤族・社宅住み「45歳末っ子長男」、85歳亡父から実家をもらう予定だったが…遺言書を“二度見”した税理士が告げた「衝撃の一言」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「判断能力が低下した人」が相続人のなかにいる場合の遺産分割

剛さんは父親が亡くなったあと、葬儀の準備や実家の整理を行いながら、清さんの遺産の相続について進める必要がありました。相続税の手続きのために、同僚を通じて税理士Aさんを紹介してもらいました。税理士Aさんは剛さんから話を聞き、こう尋ねたそうです。

 

「お母さまは認知症ですか?」

 

剛さんの母親は、脳梗塞の後遺症のため麻痺があり、介護施設に入居することになりましたが、認知症と診断はされてはいませんでした。そこで剛さんは、「認知症ではありません」と答えました。そういうことなら、と遺産分割について税理士Aさんから提案された方法は以下のとおりです。

 

1.清さんの遺産の2分の1を母親が相続し、遺言書のとおりに陽子さん1,250万円、友美さん1,250万円、残りの遺産を剛さんが相続する。
 

2.1により、配偶者である母親の相続税の税額の軽減措置が適用され、相続税を軽減できる。

 

3.母親が亡くなったあと、剛さんが母親から遺産を相続することになり、清さんの遺言書のとおりに遺産分割が終了する。その際、遺産に係る基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数3人)が適用されるので、相続税は発生しない。

 

この方法による相続税の計算は、次のようになります。

 

相続税の課税価格:1億5,000万円-遺産に係る基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人4人)=9,600万円

 

居住用の宅地等の課税価額の特例の適用により、相続税課税価格は8,000万です。

 

母親の相続税額:8,000万円×2分の1×20%-200万円=600万円→0円

陽子さん、友美さんそれぞれの相続税額:1,250万円×15%-50万円=137.5万円

剛さんの相続税額:残額となる1,500万円×15%-50万円=175万円


相続税の総額は、450万円です。遺産をどのようにわけるかきょうだい間で話し合い、最初から遺言書のとおりにわけると1,225万円だったことから、税理士Aさんが提案した方法にしようと決まったそうです。その際、剛さんは疑問を抱きます。

 

「お母さんは、認知症ではないけどいまは病院で寝たきりだ。僕が声をかけてもわからないみたいだった。そういう状態でも相続することはできるのかな?」