
母は認知症ではないが…
遺産分割協議書は、相続人が自分で署名・捺印する必要があります。遺産の分割に同意しているということを示すためです。剛さんは「僕が代筆して署名するのでもいいのかも」と案を出します。2人の姉が「実子であっても、そんなことしていいの?」「さすがに問題が出てきそう」と口々に心配します。そこで、剛さんの知り合いである筆者に連絡をくれました。筆者は、法律的な話が関わることなので税理士Aさん、剛さん、陽子さん、友美さんとのあいだでもう一度話し合いの機会を持つことをお勧めしました。
遺産分割協議書が作成できない!?
母親の状況を把握し、遺言書の内容を再度確認した税理士は「このままでは、遺産分割協議書が作成できません」と告げます。剛さんたちは慌てました。なにが問題なのでしょうか? それは、亡き父親の相続人の一人である剛さんたちの母親の状況です。
存続人のなかに判断能力が低下している人がいるケースの対応としては、
・家庭裁判所で遺言書検認の申し立てをする
・成年後見人を申し立てる
といった選択肢があります。しかし今回の場合、いまさら上記の選択肢をとっていては相続税の申告期限までに間に合わない可能性があることを税理士から指摘されたのです。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10ヵ月。申告期限を過ぎてしまうと、通常より相続税を多額に納付しなければなりません。申告期限内に分割できない場合は、法定相続分に沿って仮の遺産相続協議書を提出します。相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて申告をすることで、剛さんたちの母親が亡くなった時点で正しい遺産の分割を申告し、相続税の還付を受ける、という手順になります。ただ、配偶者の税額の軽減措置や、居住用の宅地等の課税価額の特例は、適用されない計算での相続税を申告期限までに納付しなければなりません。
最終的には、相続税の総額は450万円となりますが、一旦、1,705万円の相続税を納付することになります。相続税は原則として各相続人が自分で納付します。遺産分割協議はしばらく時間がかかりました。