厚生労働省の人口動態統計(確定数)の概況によると、2023年に亡くなった人は157万5,936人と前年より6,886人増加。調査開始以来、最多となっています。親しい人とのお別れとともに、相続を経験したという人も多いのではないでしょうか。相続では、ちょっとした行き違いからトラブルに発展する可能性もあります。本記事では山口剛さん(仮名)の事例とともに、相続発生時のトラブルについて、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を変更しています。
年収1,000万円の転勤族・社宅住み「45歳末っ子長男」、85歳亡父から実家をもらう予定だったが…遺言書を“二度見”した税理士が告げた「衝撃の一言」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

人口減も、認知症患者は増加の一途

65歳以上の高齢者のうち、日常生活に大きな影響を与える2012年の認知症有病者は462万人でした。団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年には584万2,000人。高齢者の14.9%が認知症を発症している状態になると推計されています。

 

[図表]年齢階級別の有病率

 

できれば認知症にならないように気をつけて暮らしたいですが、だれでもその可能性があると考えられそうです。相続が発生した際、相続人のなかに認知症であるかどうかに関わらず判断能力が低下した人がいるケースも大いにあるでしょう。そのときにならなければわからないことはたくさんあると思います。しかし、どのようなことに注意しておけばよいのかを考えておくことも必要でしょう。

父が書いた遺言書の内容

山口剛さん(仮名/45歳・会社員)は、関西圏にお住まいです。地元の有名私立大学を卒業し、自動車関連企業に就職しました。家族は妻(40歳・パート勤務)、長女(20歳・大学生)、長男(17歳・高校生)の4人です。転勤があるので、マイホームは購入せず社宅を利用しています。退職後は、同じ市内にある実家を相続することになっていました。

 

剛さんには、上の姉の陽子さん(仮名/48歳)と下の姉の友美さん(仮名/46歳)がいますが、どちらも結婚し家族と暮らしています。陽子さんは関西圏、友美さんは関東圏にお住まいです。剛さんの母親(78歳)は、5年前に脳梗塞を発症しました。退院後、しばらくのあいだは実家で主に父親の清さん(享年85)が介護を担当していました。しかしその後、施設に入居することになりました。少しずつ体力が弱まり、現在は介護施設の提携病院に入院しています。

 

父親の清さんは持病の心臓病がしだいに悪化し、8ヵ月前に亡くなりました。清さんは、妻の介護を続ける日々のなかで、子どもたちに遺言書を残しておこうと思うようになりました。清さんの財産は、清さんの父親から相続した土地1億1,000万円、夫婦で築いた財産4,000万円、総額1億5,000万円です。

 

遺言書は1枚の紙に記入し、そのまま剛さんに渡したそうです。清さんの書いた遺言書の内容は以下。妻が亡くなったあとのことを想定していたことがわかります。

 

遺言書

 

私は、私の所有する不動産を、長男剛に相続させる。

 住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇〇番地〇〇

 

私は、私の所有する現金1,250万円を、長女陽子に相続させる。

 

私は、私の所有する現金1,250万円を、次女友美に相続させる。

 

私は、私の所有する株式・現金の残額を、長男剛に相続させる。

 

令和2年4月10日

 

住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇〇番地〇〇   山口清  印