タワーマンションの上層階で体験する激しい揺れ、そして災害時の閉じ込めの危険性……これは単なる想定ではなく、現実に起こり得る問題です。本記事では、Kさん夫婦の事例とともに防災の視点から、タワーマンション購入にあたっての重要なポイントについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
埋立地にそそり立つ「安全地帯」?…やがてくる巨大地震。世帯年収1,520万円・31歳パワーカップルがまだ知らない“1億円超湾岸タワマン”の「想像を絶する恐怖」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

被災経験を持つ夫「湾岸タワマンを買いたい」

<事例>

夫Kさん 31歳 大手金融機関勤務 年収800万円

妻Mさん 31歳 大手メーカー勤務 年収720万円

金融資産合計 4,700万円

子供なし

 

夫Kさんと妻Mさんは都心で勤務する会社員の夫婦です。世帯年収は1,520万円。2人の金融資産を合わせると4,700万円と、潤沢な貯えがあります。現在は日本橋にある賃貸マンションに住んでいますが、子供をもうける前に自宅マンションを購入しようと考えています。夫Kさんが強くこだわっているのは、マンションの防災面。大地震や大津波、洪水などに強いマンションでなければならないと考えているのです。

 

それには夫Kさんの過去の体験が影響しています。夫Kさんは岩手県沿岸部の小さな町の生まれです。小学生のころから成績が優秀だった夫Kさんは、盛岡市内の進学校に入学。沿岸部からは遠く通学できないため、高校の近くで下宿暮らしをしていました。

 

2011年3月11日の14時46分、高校2年生だったKさんは学校で大地震に襲われたのです。携帯電話の警報が鳴った直後に気持ち悪い横揺れが長く続きました。揺れの最中に教室の照明が消えて停電。とっさに頭をよぎったのは沿岸部の実家に住む両親のことです。すぐに母親に電話をしても出ません。やがてアンテナの電源が消失したらしく、携帯は通じなくなりました。下宿に戻ると、管理人の男性が心配してくれて小さなラジオを貸してくれました。そこからわかったのは実家のある町は津波で壊滅状態だということ。Kさんの実家は海岸から700mほどしか離れていません。不安と恐怖のなか、暖房のつかない部屋でダウンジャケットを着たまま、ラジオをつけっぱなしで眠りました。

 

翌々日、電気が復旧すると同時に叔父から電話がありました。両親は無事で避難所にいるとのこと。しかし自宅は跡形もなく流れてしまい、瓦礫の山であると聞かされました。数日後、実家の二階部分が遠く離れた海岸で見つかったそうです。その二階部分はKさんが使っていた自室で、それが海で見つかるというのは悲しいような驚きのような複雑な気持ちでした。実家があった場所には、どこかから流れてきた自動販売機が横たわっていたそうです。

 

そのような強烈な体験をした夫Kさんだからこそ、災害に強い家が欲しいと願っているのです。そこで候補として考えたのが、湾岸エリアのタワーマンションです。晴海にあるタワーマンションの上層階の物件で、価格は1億円超です。このことについて、妻Mさんは強く疑問を持っています。