タワーマンションの上層階で体験する激しい揺れ、そして災害時の閉じ込めの危険性……これは単なる想定ではなく、現実に起こり得る問題です。本記事では、Kさん夫婦の事例とともに防災の視点から、タワーマンション購入にあたっての重要なポイントについて長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
埋立地にそそり立つ「安全地帯」?…やがてくる巨大地震。世帯年収1,520万円・31歳パワーカップルがまだ知らない“1億円超湾岸タワマン”の「想像を絶する恐怖」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

巨大地震でタワマンは倒壊するのか?

タワーマンションでは、どのような地震対策が取られているのでしょうか。

 

地上60mを超えるタワーマンションには国土交通省の厳しい建築基準が適用されています。特に2000年(平成12年)以降は、「平成12年建設省告示第1461号第4号イに定める地震動」、いわゆる告示波といわれるデータをもとに耐震性能を基準化されていて、長周期地震動もある程度想定しているのです。

 

ところが、これまで想定していた地震動の大きさを南海トラフ巨大地震が超えるのではないかという研究が近年出てきました。これを受けて2017年4月から新築のタワーマンションについてはさらに厳しい耐震基準が適用されています。そのため、タワーマンションが倒壊するかどうかという観点では、建設が2000年以降のものはまあまあ大丈夫、2017年以降のものは理論上、南海トラフ巨大地震に耐えられることになっています。

 

しかし、巨大地震が発生したときに建物は頑丈でも、揺れが収まったあとで住民が命の危険にさらされる可能性があります。それが“閉じ込め”です。

 

フロアに閉じ込められることで起きる命の危険性

まずはエレベーターの停止が挙げられます。タワーマンションではエレベーターは文字通り生命線です。20階以上の上層階から階段で何度も行き来することは若い人でも不可能でしょう。建築基準法では震災時にも予備電源で稼働する非常用エレベーターの設置を義務付けていますが、予備電源は60分以上稼働できることと定められています。予備電源を失ったあとは非常用エレベーターも動かなくなります。

 

フロアに閉じ込められてしまうと、まず食料を手に入れることができなくなります。各家庭で非常用の食料の備蓄を行うことに加え、管理組合でフロアごとに食料を備蓄しているケースもあります。長期間の停電となったらその食料も尽きてしまうかもしれません。

 

食料だけではなく、医薬品はより深刻です。糖尿病や高血圧、脳梗塞などを患ったあとは服薬を継続しなければ命の危険があります。災害のストレスで病状が悪化し救急搬送が必要となっても、救急隊が運び出せないとなると生存は絶望的な状況になります。

 

最近では巨大なガス発電機を設置しているタワーマンションもあります。ガス発電機によってエレベーターを停電時も動かし続ける仕組みです。そもそもガスが止まったらどうするのかと考えてしまいますが、都市ガスのうち高圧・中圧のガス管は大地震に耐えられる構造になっているため、供給は途絶えないとされています。震災時も制限なくエレベーターを動かせることができたら、命が助かる可能性が高まるでしょう。さらには各専有部の電源までも供給できるタワーマンションが登場しています。

 

残念ながらここまでの設備があるタワーマンションは多くはありません。現状では多くの家庭では自助努力で食料や水の備蓄と、非常時用に多めの医薬品の確保の努力が求められます。また、深刻な持病がある場合はタワーマンションの居住自体を諦めることも必要になります。カナダでの研究ですが、心停止した場合、高層階ほど生存率が低くなるという報告もあります。平常時でも病気がある方には不向きのタワーマンションなので、住めるのは健康な若いうちだけともいえるでしょう。