複雑で難しい日本の年金制度。ときに注意書き程度のルールによって、想定外の事態に直面することも。なかには「思っていたよりも年金が少なかった」という、非常事態に遭遇するケースもあるようです。
「年金月21万円」だったが…70歳男性「年金月30万円」に増額で歓喜も一瞬、年金事務所で絶句「年金を繰り下げても意味ないじゃん!」 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金繰下げ+厚生年金加入で年金受取額アップのはずが…

月19万円の年金が月25万円になる……そんなシミュレーションをしていたのは博さん、60歳のとき。60歳以降も働き続けた=厚生年金に加入していた博さんが65歳から受け取る年金額は月21万円になっていました。繰下げ受給の増額率は、本来の受取額に対して適用されます。66歳ら受け取ったら22.7万円、67歳なら24.5万円、68歳なら26.2万円、69歳なら28.0万円、70歳なら29.8万円。さらに65歳以降も厚生年金にも加入し続けたら、給与に基づいて年金額が増加するため、受取額がさらに増える可能性もありました。

 

妻が定年を迎える68歳までは働き続けるといっていた博さんですが、結局、上限いっぱいの70歳まで働いたといいます。それは仕事を辞めてもひとりですることはないから。実は博さん66歳のとき、妻・美登里さんが急逝。寂しさを埋めるためにも、仕事を辞めるわけにはいかなかったのです。

 

繰下げ受給の上限、70歳まで働き、年金を請求することになった博さん。

 

――30万円を超える年金がもらえそうだ、よかった、よかった。そこに妻・美登里さんが生きていたら、なおよかったのだが

 

そんな想いに浸りながら、年金事務所で手続きをした博さん。しかし、そこで聞いた受取額の概算に、一瞬、言葉を失ってしまったといいます。その額、「約23万4,000円」。計算が間違えてないか、担当者に聞き直すと、繰下げ受給に関する衝撃の事実を知ることになります。

 

66歳に達した日以後の繰下げ待機期間中に、他の公的年金の受給権(配偶者が死亡して遺族年金が発生した場合など)を得た場合には、その時点で増額率が固定され、年金の請求の手続きを遅らせても増額率は増えません。このとき、増額された年金は、他の年金が発生した月の翌月分から受け取ることができます。

出所:日本年金機構ホームページ

 

つまり、博さんの年金の繰下げは66歳でストップしていたということ。具体的には「19万円×10.5%(66歳3ヵ月まで繰下げした場合の増額率)」が繰下げによる増額。さらに70歳まで働いたことによる増額で、プラス2万5,000円ほど。想定していたよりもずっと少ない受取額だったのです。

 

――年金の繰下げ……まったくといっていいほど、意味がなかったです

 

年金月23万円でも、ひとりであれば十分生ける。ただ妻・美登里さんが亡くなった時点で繰下げがストップしていいう事実を初めて知り、何ともやりきれない気持ちになったといいます。

 

 

[参考資料]

日本年金機構『年金の繰下げ受給』